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□ 【 永 訣 】/【レイトショウ】
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【 永 訣 】
J。きみに。
さよならを。しなくちゃ。
その一心で。僕は、今。
この、短い手紙を。したためています。
僕は。孤独な人間でした。
君が、気付くより。
ずっと、ずっと。前から。
今、君が。理解してくれたことを。
僕は、嬉しく思う。
と、同時に。
決して、君が。共感してくれないことを。
とても、淋しく。想うのです。
僕が、こんな人間になったのは。
君のせいでは、ありません。
きっと。誰のせいでもない。
それは。僕自身の、責任であり。
僕自身にも、どうしようもない。
なんらかの、力のせいでもあったと。
考えるのです。
君や。他の、優しい人々が。
僕の、孤独な性質の原因を。自分達に、帰結させてしまうこと。
それだけを。
僕は、いつも。恐れておりました。
君は。僕のことを。
大好きだと。言いました。
でも。僕は。
それすらも。信じることが、できなかった。
君は。
僕には無い。たくさんのものを、持っていて。
何もかもが。完璧で。
君に、会うたび。
君に、憧れるあまり。僕は。
どんどん、自分を。見失って、ゆきました。
僕が、いなくても。きっと。
君は。生きて、ゆけるのでしょう。
けれど。僕には。
君以外。ほかに、何も。無いのです。
こんな、つまらない。僕のことを。
君のような、ひとが。愛してくれるなんて。
そんなこと。
どうして。信じることが、できるでしょうか。
いつか。
君に。尋ねたことが、ありました。
僕といても、楽しくないだろう。と。
あの時、君は。ひどく、怒って。
僕のことを。面倒くさい、と。切り捨てましたね。
それは。君が、「愛情」と呼ぶものに由来する。厳しさ、だったのかもしれません。
だけど。僕は。
わかって、しまったのです。
君は。決して。
僕の、孤独を。理解はしても。
共有してくれることは。無いのだと。
ずっと。
僕は。思っておりました。
あの時。死んでいれば、よかった。
それよりも、もっと素晴らしいのは。
最初から。存在しないこと。
過去のあやまちを。一つだけ、正せるのだとしたら。
僕は。迷わず、こう言うでしょう。
僕を孕んだ、母親の。
膨れた子宮を。掻き切ってやりたい。
ここに、生まれたことが。
きっと、僕の。あやまちだった。
僕は。
頭が。おかしいのです。
だから。隠さねば、ならないのです。
けれども。
どんなに。完璧に、演じても。
少しずつ。少しずつ。
それは。漏れ出してゆくのです。
皮膚を、突き破り。
白日へと。流れ出して、ゆくのです。
あしたも。完璧に、演じなければならない。
彼らに。気付かれては、ならない。
言語を、抑制し。
笑顔を、組み立て。
好奇心と、無関心の。釣り合う位置を。
掴み取らねば、ならない。
僕は、ひどく。疲れていました。
彼らに、気取られはしまいかと。びくびくしていました。
不本意に、零れ落ちた。僕の。奇妙な言動の、かけらたちが。
時間の砂に。埋もれてゆく風景を。
それと、気付きもせずに。通り過ぎてほしいと。
ひたすら、それだけを。
望んでいたのです。
僕が、捨てられた皮膚であることを。
彼らが、永遠に。知らなければいい。
そう。望んできたのです。
なのに。
君だけは。違った。
君だけには。拾ってほしいと。
願って、しまった。
僕の、かけらを。
歓びも。
哀しみも。
過去も。
未来も。
何も、いらない。
ただ。
一緒に。絶望して、ほしかった。
それだけ、なのです。
ずっと。苦しんでいた、僕を。
置き去りにして。
ひとり。幸せに輝いてゆく、君が。
赦せなかった。
君なんか。
死ねば、いいのに。
でも。
一番、死んでほしいのは。
こんな。醜い想いに、とり憑かれている。
僕自身。だったのですね。
君が、いてくれたことで。
僕の魂は、束の間でも。
完全なる、孤独を。免れたのだと、思います。
むしろ。君と、訣別する。いま。
本当の、孤独が。始まるのかも、しれません。
これから。僕は。
たった独りでも。眠りゆくだけの力を、身に付けるよう。足掻きます。
心臓が、重たく感じる。こんな日を。
未来という、不確定な時の中から。一秒でも。そう、一秒でも早く。
取り除いて。
安息を。得るために。
誰もが。誕生への、是非を。選択できない中で。
僕は。他人のような、幸せは。掴めなかったかもしれませんが。
それでも。
君が、いてくれて。よかったと。
何も、思わず。ただ。静かに。
感じるのです。
ちゃんと。さよならを、言えなくて。ごめん。
君に、求めすぎてしまって。ごめん。
君を、憎んでしまって。ごめん。
君を。
好きに、なってしまって。
ごめん。
ありがとう。
さよなら。
大好きだった。
親愛なる、J。
きみの、望むものに。
本当は。
なりたかったんだ。
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