JR@

□フローズン
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とろけそうになるくらい。やさしい唄をうたう、僕は。

いつも、からだの奥深く。君の存在を、感じている。

熱くて、硬くて。脈打つ、鼓動。

僕の大好きな。君の、ペニス。






人気の無い。古びた劇場の、トイレで。

Jは。僕を、犯す。

小さな個室は、男二人には狭すぎて。

力任せに押し込まれた肩が、ぶつかり。がたんと、ドアを揺らした。

こんな音を立てたら。誰かに、気付かれてしまう。

いや、もう。とっくに、気付かれてるのかもしれない。

さっき。

劇場の関係者と思しき、初老の男性が。

開演直前に席を立ち。Jに手を引かれて、トイレに入る僕の顔を。

にやにやと。意味ありげな笑みを浮かべながら、見つめていた。

ここは、はじめから。そういう場所なのかもしれない。

わかっていても。きっと、僕は。着いて来た。

捨てられたくない。

君にだけは。

たとえ。

君が、どんなに。僕を、蔑んでいようとも。






たくし上げられたシャツの隙間から。硬い手のひらが、僕の乳首をまさぐる。

僕のことを、気持ち良くさせようなんて。少しも思っていない、触り方で。

数回いじっただけで、飽きたのか。素早くベルトを緩められ、下着を下ろされた。

「相変わらず。たたねえのな。」

僕のそれを、乱暴に握る。

力が強すぎて。痛くて。

このまま。握り潰されてしまうんじゃないかと、怖くなる。

「こんなんで。ガキ、つくれんの。」

剥き出しになった、下半身を。君は、侮蔑の言葉とともに弄び。「愛撫」する。

Jは。僕のそれを、嫌悪している。

Jは。僕が女だったらよかったと、思っている。

もしも。

僕が、女性だったなら。

君の子供を、産んで。

もっともっと。違う形のしあわせを、築けたのかな。

たとえば。平凡だけど、穏やかな食卓。

僕の、からだには。

君のほしがる。何もかもが、欠落している。

柔らかい乳房も。

あたたかく、濡れた膣も。

君が。どんなに、深く抉っても。

辿り着く。子宮すら、無い。

「自分で、拡げとけよ。」

汚ねえから。

吐き捨てるように、命じる。

僕だって。

自分のそんなとこに。指なんか、入れたくない。

だから。

この瞬間が、いちばん惨めで。嫌悪感のあまり、泣きたくなる。

君が手渡したローションを、指先にとって。

自分で。そこに、塗りつけた。

恥ずかしい。

君は、なんの感慨も無さそうな顔をして。

尻に、指を突き入れる。僕の姿を、観察している。

不気味なくらい、無表情なのに。

君のペニスは。もう痛々しいほどに、張り詰めていて。

ジーンズから、取り出された。それの大きさに、息を飲む。

僕のことが、大嫌いで。

心底。気持ち悪いと、思っているくせに。

それでも。僕のからだを見て、勃起する君は。

僕と同じ。最低の、きちがいなんだと思う。

もしも。

君の旧友で。僕の良き理解者でもある、彼が。こんなことを、知ったら。

いったい。どんな顔を、するんだろうね。

時々。何もかもをぶちまけてやりたい衝動に、駆られるけれど。

実際は。そんな勇気、僕には無い。

自分に向けられる、彼の好意に。僕は、確かな優越感と、満足感を得ていて。

あまつさえ。それを仕事のために、利用している。

最低だ。






僕は。誰にも、嫌われたくない。

傷付きたくない。

愛されたい。

これからも。

ずっと。






差し入れた指を。どうにか、2本に増やすまで。随分と、時間がかかった。

のろのろとした、僕の動作に。君が、焦れているのがわかる。

怒らせたくないから。何も言わずに。

背を向け。壁に、手を付いた。

君は。後ろからしか、僕のことを犯さない。

僕の顔を、見たくないから。

僕の顔が、大嫌いだから。

短く切り揃えられた、爪の先が。突き出した肉を掴み、広げる。

体温を、感じたと思ったら。すぐに、めりめりと捩じ込んでくる。

すごく、気持ち良さそうな。熱いため息が、首筋を撫でる。

申し訳程度に濡らした、そこは。君のを受け容れるには、とても足りなくて。

苦しくて。痛くて。

気持ち悪くて。

洩れそうになる醜い悲鳴を、抑えるために。僕は、自分の手首を噛む。

前に、痛いと訴えたら。剥ぎ取った下着を、口に詰め込まれたことがあって。

それ以来。何があっても、声だけは堪えるようになった。

僕の手首は、いつも。鈍い鬱血の色に、染まる。

だけど。

つらいのは、いつだって。最初のうちだけ。

「感じてんじゃねえよ。気持ち悪りい。」

不思議なことに。

君の手に触れられている時には、少しも反応しなかった。僕のペニスは。

いつの間にか。みっともなく、濡れそぼって。たち上がっている。

下腹部に、熱が溜まって。すごく、あつくて。重くて。

男に突っ込まれて、漏らすなんて。

嘲られても、仕方ない。

だから。

僕は、ただ。手首にきつく、歯を立てて。

苦痛から悦楽に変化した、あえぎを。抑えることに、必死になる。

熱い塊に。すごいところを、擦られて。

せつなさに。涙を、流す。

きもちいい。

どうか、なってしまいそうなくらい。

もっと。

もっと、突き破るくらい。奥まで。

してほしい。

大好きな。君の、ペニスが。

思いのままに。僕の内臓を、蹂躙する。

ぐちゃぐちゃに、掻き回されて。溶けたローションが、溢れて。

ゆっくりと。太腿を伝い落ちてゆくのが、見えた。

汚くて。いやらしくて。興奮して。

繋がってる場所が。君の精液を、ほしがって。

いっぱい、いっぱい。出してほしくて。

ぎゅうぎゅうと、蠢いて。だだをこねる。

噛み締める顎に、力が入る。

声を、出したい。

君の名前を。呼びたい。

舌の上に広がるのは、鉄の味。

何も生み出せない。僕の、いのち。

咽返るような、赤。

個室を隔てる、薄汚れた壁が。君の律動に合わせて、がたがたと揺れる。

僕たちのしていることに、気付かれてしまう。

それでも、いい。

いや。

そうなれば、いい。

霞みきった、頭で。繰り返し。願う。

僕は。男に犯されるのが、大好きな。

最低の、人間なんです。

「お前。ぜんぜん、よくない。」

荒い息遣いが、響いて。耳を、噛まれて。

君の身体から、出たもので。体内が、濡れてゆく感覚に。僕は。

背筋を這い登るような、オルガスムを覚えて。

ほんのひとときの。花火みたいな、しあわせに。悦びに、うち震えながら。

やがて。すべてを、解放した。






僕たちは。口づけを、交わしたことが無い。

互いの裸を。見たことが、無い。

君には、ちゃんと。他に、特別なひとがいて。

僕とのこれは、セックスではなくて。むしろ、排泄行為と言う方が、正しい。

穢れた欲望や、醜い感情。

そういう、君にふさわしくないもの全部を。僕の中に、吐き出すことで。

君は、君でいることを。やめないでいられる。

光り輝くことが、できる。

笑うことが、できる。

僕は。少しでも、君に必要とされているんだって。

自惚れてしまっても。構わないのかな。

そうだと、いいな。

君に、犯されることで。

僕も、僕でいることを。やめないで、いられるから。

唄い続けることが、できるから。






何ひとつ、似ていないようだった。僕たちは。

本当は。誰よりも、近くにいたんだ。

それだけで。僕は。

この世界に。生まれてきた、意味があった。

ありがとう。

ありがとう。だいきらいで

だいすきな、きみ。

明日も、きっと。

君に犯された、僕は。新しい唄を、うたう。

君の残像を、体内に感じながら。






やさしすぎて。

凍えそうになる、うたを。










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