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□贖宥
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あの頃。
俺達は驚くほど、救済を求めては、食卓についた。
必死だった。
俺は、君の食べているところを見るのが好きで。
別にエロいこと想像してるわけじゃない。
確かに。目の前の料理に恋してるみたいにきらきらと輝く虹彩や、薄くて柔らかそうな唇や、いっぱいに食べ物を咀嚼して膨らむ頬や、やがてそれを嚥下する小さなほくろのある白い喉なんかは、噛みちぎってやりたいくらい。実に食欲をそそる代物だったわけだけど。
そうじゃなくて、俺が好きだったのは。生きることに疲れきっていたはずの君が、他でもない俺の前で、生きるための行為に没頭する。そういう姿が飢えきった動物みたいにがむしゃらで。あまりに生々しくて、うざったくて、かわいくて。
気付いたら、ますます期待してしまっていた。
救済を。君に。
今だからわかる。
俺は君に、君は俺に。求めるばかりで。ただただ必死に、救済を求めるばかりで。
与えようと、しなかった。
救われたくて、救われたくて。自分が救われることだけに夢中で。相手を救うことを考えもしなかった。
飢えきっていた。
かわいそうな、ふたりだ。
俺は君を、 君は俺を。ほしがっていた、のではなく。
「救済」という響きに恋をしていた。渇いていた。
君と、はだかの腕を並べる。
君の腕は、プラスティックの棒のようで。俺のそれより、ずっと細く、白く、生命感無く。果敢無げでまた、何もかもを哀しくさせる。
けれども、信じていたかった。
この腕に。この、果敢無い腕に。
きっと、俺を救う力があるんだって。
救済に恋をした。
ふたりの未来に、色は無く。
あの頃。
照れたようにはにかむ君の腕に口付けながら、いつもぼんやり不安だった。
すべらかな白い腕が、俺のそれと同じに変わってしまう時が来たら
君を、離してあげられるのかな。
今はもう戻らない。脆弱な、その手。
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