IR

□やわらかな食卓
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きもちいいのは、大好きだ。

でも。隆一が、相手だと。ただ、それだけじゃなくて。

なんていうか。時々、とんでもないことを。してやりたくもなる。






シャワーを浴びて、出てきた隆一は。ドライヤーで、髪を乾かしている。

その背後に立って。

頭から、思いきり。冷蔵庫にあった、飲み残しの豆乳パックを。ひっくり返してやった。

なにすんだ洗ったばかりなのに汚いだろそのミルク高かったのにもったいない

きもちわるい

怒りと困惑の音色を、聞き流しながら。

わきの下に手を入れて、立ち上がらせる。

ベッドに君を投げ出す、僕は。きっと、ものすごく。微笑んでいる。

君の口から出る、数少ない悪態が。

君のうたう、恋のうたと同じくらい。僕は、好き。

「どうしたの。いのちゃん。」

眉を下げて、弱々しく君は呟く。

「別に。なんでもないよ。」

答える、僕は。ああ。また笑ってるに、違いない。

もうすっかり、怒る気力も無くしてしまったかのように見える。君の。

手足を、わざと強く押さえ付けて。

レイプしてるみたいな気分になりながら。ざくろのように赤く上気した唇に、噛み付く。

奥には入り込まないで。代わりに、君の全身に描かれた、豆乳の道を辿る。

Tシャツをたくし上げたら。僕の大嫌いな液体で、君の身体はよごされている。

くさくて。ひと舐めしただけで、吐き気が込み上げたけど。

我慢して。隅々まで、唇を付ける。

君は。心底、気持ち悪そうにしていて。

僕は。とても、嬉しくなる。

胸に這わせた手のひらの皮膚が、硬くなったところに引っかかって。

いつの間にか。そこは、おいしそうに色を変えていた。

なんだ。感じてんじゃん。

思ったことを、そのまま声にしたら。

君の顔は、耳まで真っ赤になって。恨めしそうに、僕を見下ろす。

そんな君の眼も、僕は好きなんだってこと。教えてあげたい気もするけれど。

さすがに、かわいそうだから。我慢しよう。

そんなことを、考えながら。君が僕に感じてくれてる証拠を、舐めた。

昼下がりの部屋を満たす吐息が、せわしなくなって。

猫がミルクを啜るみたいな。ぴちゃぴちゃいう音が、響いて。

自分が恥ずかしがってることが、悔しいのか。荒い息遣いの合間から、やけくそ気味に、君は言う。

いのちゃんの、へんたい。

だから、そんな言葉が。もっともっと、僕をおかしくしてしまうってことに。

気付かないなんて。ばかで、かわいい。

豆乳くさく、濡れた服を。全部、引きはがして。

君だけを。生まれたまんまの姿にする。

君は、焦って。僕の服も、脱がせようとするけれど。

そうそう思い通りには、なってやらない。

本気で蹴ってくる足を、捕まえて。

逆に。君の、いちばん素直な部分を。握ってあげた。

そこはまだ、柔らかかったけれど。僕の手のひらに包まれると、すぐに熱い血液を拾い出す。

控えめな悪態は、底を突いて。

寝室の壁に、跳ね返るのは。すすり泣くような、君の声だけになった。

それにしても。ベッドカバーも、シーツも。何もかも、豆乳まみれで。ぐしょぐしょだ。

後で、洗濯しないと。

部屋の中は、充分に冷房が効いてるけれど。豆乳と汗と唾液で、君の肌はたっぷりと湿って。

僕の舌に、貼り付いて。離れたくないって、だだをこねる。

そのくせ。いつも、君は。僕の口の中に出すのを、嫌がる。

だけど、これに関して。君の希望が、叶えられたことは。一度だって、無い。

君は、必死で。僕の頭を押しやろうと、手を伸ばして頑張るけれど。

舌に擦れる大きさが、増してくのを感じながら。やめるなんて、できない。

僕の喉が、小さく上下するのを見て。君は、絶望的な顔になる。

「飲まないでって。言ってるのに。」

まだ不揃いな呼吸で、僕を責める。君の白い肌色を、オレンジが染めてゆく。

日が暮れる前に。シャワーを浴びたい。

「隆ちゃん。くさい。」

豆乳と僕の唾液で、べとべとになった。君の身体を、シーツにくるんで、抱き上げて。

いっしょに。バスルームへ、向かった。






気付いたら。自分の服にも、豆乳のにおいが染み付いている。

不愉快な気分になって。服のまま、シャワーを浴びる。

君は、湯船に浸かりながら。僕の方を、ちらちら盗み見ている。

ぐっしょりと濡れた服を、無雑作に脱いだら。眼を逸らされて。

その様子が、むずむずするような感覚を呼び起こしたから。

バスタブの半分を、無理矢理占領して。さっきから、熱に浮かされたままだったものを。君の手に、握らせた。

二人分の体積と、同じだけのお湯が溢れて。排水口に、吸い込まれてく。

小さい頃の僕は。その光景が、大好きだったことを思い出す。

「あついよ。」

お湯の温度が、高すぎるのか。のぼせたみたいに、君はうつろな眼をしている。

僕が、いつ。君の中に入りたいと、言い出すのか。怖がって、怯えてるのかもしれない。

大丈夫だよ。

今日は。君の恥ずかしいところへ、入るより。

さくら色した、薄くて柔らかい唇の方が。懐かしく思える。

そんな日なんだ。

湯船から、出て。何気無く、視線を重ねて。

言葉にしなくても。僕と君は、自然と、その体勢になった。

両脚の間に、跪いて。君の唇が、僕のを包む。

あったかくて。泣きそうになる。

やっぱり。

君とするのが。僕は、いちばん。きもちいい。

我慢できずに、洩らした声は。小さな箱の中で、睦みあう水音に溶ける。

僕たちを。もっともっと、いやらしい気分にしてくれる。

君は。僕に飲ませるのは、嫌がるくせに。

自分が飲む時は。まるで平気ですって、顔してるから。

おかしくて。きもちよくて。

ほら、また。

きっと、僕は。ものすごく、微笑んでいる。






ときどき。

君が、本当にここに存在してるのか。わからなくなる。

何もかも。たとえば、あの窓から見える。いつだって、オレンジの夕焼けも。

僕の、期待通りの反応をしてくれる。君も。

疲れて眠ってしまった。君の目が、覚めるまでに。

洗濯機を回しながら。キッチンで、夕食の仕度をする。僕も。

永い永い。夢の一部、なんじゃないかって。

くだらないかもしれないけれど。

だから。こうやって、確かめ合う。

君の頭に。豆乳をぶちまける。

怒ったり。傷付いたり。

戸惑ったり。恥ずかしがったりする。君を見て。

安心する。

ああ。よかった。

君は、確かに。

ここに。いるんだ。






明日も、笑って。おはようが、言えますように。

それだけが。この食卓を守りたい、僕の。

たったひとつの。小さな小さな、ねがい。












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