IR

□ 水 色
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ここ、最近。

君が、やたらと。きらきらして、見えるのは。

どうやら。恋をしているから、らしい。

でも。

その相手は。俺じゃなくて。







揺れ動く。君のつむじを、眺めている。

俺の性器を。一生懸命に、頬張って。

いやらしく、上下する。君の頭は。

この角度から、見下ろすと。なんでだろう。

ものすごく。かわいらしい。

マジで。ペットにするみたいに、撫でてやりたくなるような。

いかれた庇護欲を。かき立ててくれる。

それにしても。

おいしそうに、舐めるよなあ。

いや、間違っても。おいしいわけ、ないんだろうけど。

男のやつ、舐めるって。どんな感じなんだろう。

俺は、やったことないから。わかんないけど。

もしも。今。

君のを、舐めてみたいなんて。ほざいたら。

君は。どんな顔を、するんだろう。

笑うのかな。

怒るのかな。

それとも。

嫌だって、拒否りながらも。泣くほど、感じちゃったりして。

うわ。

やばい。

今の。想像だけで、かなりきた。

次、する時。ほんとに、言ってみようかなあ。

なんて。

そんな。頭の悪いことばかり、考えていたら。

俺のおめでたい雑念が、伝わったみたいに。

ふと顔を上げた、隆一と。

眼が。合ってしまった。

ああ。

なんだよ。

もう少しで。いけそうだったのに。

「いのちゃん。気持ちいい?」

どこか、ぽかんとした表情で。尋ねてくる。

そんなこと、訊かなくてもわかるだろって。

言ってやりたかったけど。ぐっと、我慢して。

「もうちょっとで、いけそうだから。続けて。」

そう、応えて。

さっき、思い描いたみたいに。ふわりと、髪を撫でてあげた。

「よかった。」

君は、心底嬉しそうに。微笑んで。

また。俺のを、舐めしゃぶることに。集中する。

本音を言うなら。最初は。

この行為に、なんの意味があるのか。なんて。

ぐるぐる。悩んだりも、した。

だけど。

何度も何度も、繰り返した。今となっては。

なんだか、もう。全部、どうでもいいことのように。思えてきた。

だって。気持ちいいんだし。

隆一は。嫌がってないし。

俺と君は。確かに、仲が良かったけれど。

まさか。こんなことまで、するようになるとは。

いくら俺でも。想像すら、していなかった。

きっかけは。

もう、だいぶ。忘れてしまっていて。

あれは確か、俺の部屋で。

いつもみたいに。ふざけて、触り合ってるうちに。

何かの弾みで、勃起してしまったから。

いったい。どうしたものかと、思って。

「舐めてよ。」

って。

軽い冗談のつもりで、うそぶいたはずが。

信じられないことに。

君は。あっさりと、頷いて。

本当に。俺のを口に、含んだのだ。

それからだ。

君と、しばしば。こんな行為をするように、なったのは。

それは。とても、セックスとは呼べないような。

不完全な、もので。

君は、最初から最後まで。服をきっちり、身に着けていて。

俺も、使うところ以外は。別に、脱いだりしなくて。

キスとか、抱きしめ合うとか。

そんな、甘ったるい。前戯も何も、無くて。

ただ、なんとなく。そんな気分に、なった時に。

どちらからともなく。ごく自然に、持ちかけたりする。

普通じゃないのは。わかってるけど。

俺と君は。仲の良い友人同士、だったから。

こんなことも。もしかしたら、ありえるのかなあ。なんて。

それ以上、深く考えても。いいことなんか、無さそうだったし。

それきり、俺は。考えるのを、やめてしまった。

ずっと。こんな関係が、続くのも。

悪くないって。思い始めてた。

でも。

君は。どうやら。

恋を。したらしい。

それも。

俺じゃない。別の、誰かに。







正直。

期待したことも、あった。

君は、俺のことが。好きなんじゃ、ないかって。

今となっては。

ほんの。馬鹿げた妄想でしか、ないけれど。







「隆ちゃんさ。告ったり、しないの?」

「え。誰に?」

「誰にって。隆ちゃんの、好きなひとに。」

「告白なら、もうしたよ。」

君は、屈託無く笑って。

飲みきれずにこぼしてしまった、精液を。丁寧に、ティッシュで拭き取りながら。

答えた。

「奥さんに。『結婚してください』って。」

俺が。笑うとでも、思ったんだろうか。

残念だけど。

ちっとも。面白くない。

隆一の、『想い人』は。

女じゃないだろう、という。直感が、あった。

もしも、それが。当たっているなら。

想いを告げることなんか。到底、できないのかもしれない。

どんな奴、なんだろう。

君が、頑ななほど。感情を押し殺してしまう、相手。

俺とは、全然。違うタイプなんだろうか。

少しは。似ていたり、するんだろうか。

そうだといいのに。

いや。

逆に。最悪かもしれない。

俺に。そいつの面影を、重ねてたりしたら。

届かない想いの。はけ口に、されてたりしたら。

それこそ。たまったもんじゃない。

だけど。

俺のは。平気で、しゃぶるくせに。

本命には。「すき」の一言さえ、言えないなんて。

「純粋だよね。」

呟いて。

指先で。君の頬を、撫でた。

君は、少し疲れたのか。俺の隣で、うとうとまどろんでいる。

「俺にすれば、いいのに。」

聞こえていないと、思ったせいで。

油断して。

つい、口から。滑り落ちて、しまった。

迂闊すぎる、願いなのに。

はっと、気付いた時。君は。

ただ、静かに。

瞼を。開いてた。

「いのちゃんは。」

まっすぐに。俺を、見つめる。

潤んだような、黒い瞳。

「かっこいいし。優しいし。」

「うん。」

「きっと。えっちも、うまいし。」

「まあね。」

「でも。」

君は、そこで。

ためらうように、睫毛を伏せる。

ほんの。少しだけ。

いつだって、君を見てた。俺にしか、気付けないくらい。

君が、想いを寄せている。俺の知らない、誰かには。

絶対に。気付くことなんか、できない。

そんな。

まぼろしみたいに、淡く滲む。

一瞬の、傷を浮かべて。

「だめなんだ。」







俺が、したいのは。

永遠の、片想い。だから。







俺は。

どうすれば、よかったのかな。

どうすれば。

君のいちばんに。なれたのかな。

君の目の前で、自殺したら。なれるだろうか。

それとも。

君のことを。殺してしまえば。

わからない。

でも、なりたい。

君の、いちばんに。

なりたい。

なんだろう。これ。

随分と、くだらなくて。気持ち悪くて。

情けなくて。みっともなくて。

自分が。自分じゃなくなってゆく、みたいで。

恐ろしくて。不安で。

吐きそうな、くらい。

痛々しい。

そうだ。こんなの。

こんなのは。まるで。







恋、してる。みたいだ。







こんなに、近くにいるのに。

誰にも言えない。秘密だって、あるのに。

君のことなら。なんだって。

知ってるのに。

どうしてなんだろう。

気が、狂いそうになるくらい。

淋しかった。

だから。ベッドの中で。

君のぬくもりを、引き寄せて。

抱きしめる。

「隆ちゃん。すきだよ。」

「うん。俺も。」

いのちゃんのこと。

すきだよ。

甘えたように、紡ぎ出す。唇に。

キスなんて。とても、できなかった。

誰よりも、近くにいた。君に。

安易に、手を伸ばしてしまった。俺は。

今は、もう。

誰よりも、遠い存在に。なってしまったのかもしれない。

「隆ちゃんの、好きな奴。」

「うん。」

「少しは。俺に、似てる?」

諦めきれない。

まだ。

捨てられないでいる。想いに。

与えられた、答は。

俺のことを、わかりすぎてる。君の。

不条理な、やさしさ。

そう、思っても。

赦される、だろうか。







にてないよ。







俺たちの、この恋は。

きっと。永遠に。

片想いの、ままで。眠る。











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