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□僕たちの居た午後
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セックスって。
ほんと。バカみたいだ。
最近、DVDが発売されたばかりの映画があるから。一緒に観ようと、いのちゃんに誘われて。
不覚にも見逃したことを。ずっと、後悔していた作品だったから。
それだけで。あんまり深く考えずに。喜び勇んで、部屋に上がり込んでしまった。
少しだけ、ビールを飲んで。ライブの話をしたりして。
あ、そう言えば。映画。
なんて。言いながら。
DVDをセットして、ベッドに寝転んで。
ごくごく自然な動作で。隣に来るように、シーツを叩いて促される。
その時点で。もっと、警戒すべきだったんだろうけど。
いのちゃんの挙動には。普段と変わったところなんて、欠片ほども見当たらなかったものだから。
やっぱり。まあ、いいか。なんて、思いながら。
迂闊にも。ベッドに上がって。隣に身体を横たえてしまうことになった。
メンバーにも、よく言われる。
僕は、いつも。過ぎ去ってしまってから、事の重大性に気付くらしい。
まあ、平たく言って。致命的に、鈍いんだそうだ。
今、考えれば。始めから。
そういうつもりで。君が僕を誘っていたなんて。
当然。理解して然るべきだったのに。
部屋に上がることを承諾した時点で。セックスまでOKだなんて。
そんなバカげた決まりごとが。どうやら、まかり通っているらしいのだ。この世の中には。
だけど。
君と僕は、同じバンドのメンバーで。友人で。男同士で。
それなのに。急に、こんなことになるなんて。
たとえ、致命的に鈍くなくたって。そんな、突拍子も無い可能性まで視野に入れろってのは。到底、無理な話じゃないんだろうか。
でも。さすがに。
いのちゃんが、片腕を差し出して。頭を乗せるように言ってきた時は。
いくら鈍感な僕でも。何やら雲行きが怪しくなってきたのを察したから。
気を悪くさせたら嫌だなあ、と思いつつも。丁重に、お断りすることにした。
「重いから。いいよ。」
「大丈夫だって。映画観る時の、基本でしょ。」
何が、基本なんだろう。
君の言っていることが、僕にはさっぱりわからなかったけれど。
君の眼が、あんまり真剣で。それ以上、拒絶することを許さない雰囲気だったから。
仕方なく。枕の上に置かれた左腕に、こわごわ頭を乗せてみた。
いのちゃんの腕は、細いように見えたけれど。
きちんと筋肉が付いていて。硬くて。
こうしていると。僕より、よほどたくましいように思える。
腕枕なんて、初めてだから。どうにも据わりが悪くて。
頭の重み全部を、預けることができない。僕の髪を。
何が楽しいのか、君は。
指先で、ずっと。優しく梳いていた。
繰り返し。繰り返し。
それが起こったのは。本当に、唐突だった。
映画が始まって、30分が経過した頃。
僕の視界を、いのちゃんの影が遮って。
みるみるうちに。顔が近付いて。
あれ、と思う間も無いままに。
唇を。重ねられていた。
内心。うわあ、と叫んだけれど。
実際には。一言も、声なんか出せなくて。
僕の上に覆い被さった君は。最初から、遠慮無く。口の中に舌を突っ込んでくる。
どこか冷やりとして、煙草の味がして。
ざらついて、ぬるぬるした感触が。気持ちいいとは程遠い。
ただ、頭の中だけは。妙に静かで。
君が僕のことを、そういう眼で見てるってこと。
こういうことを、したがってるってこと。
わかってなかったはずなのに。驚きなんて、微塵も無くて。
そう考えると。やっぱり、僕は。
心のどこかで。こうなることを、予期していたのかもしれない。とも思う。
だって。
これから何をされるのか。とんでもないことをされるのは、火を見るより明らかな。この状況でも。
どうしてか。逃げ出そうとだけは、思わなかったから。
深くて長い、キスが終わると。
いのちゃんは、僕を抱きしめながら。服の中に、手を差し入れてきた。
脇腹を直になぞられて。背中を撫でられて。
そのまま。胸の辺りも触られる。
当たり前だけど、膨らみなんて全く無い。まな板みたいな、胸なのに。
君は、楽しそうに。乳首をつまんで、弄り回す。
「隆ちゃんはさ。どこが、感じるの。」
そんなこと、言われても。
今、触られてる。その場所ではないことだけは、確かだ。
「胸より、こっち?」
どうにも、僕の反応が薄いせいか。君は乳首を弄るのは諦めて。下半身に手を伸ばす。
あっという間に、下着の中に手が滑り込んで。
性器を、捉えられた。
いきなりの行為に。思わず、変な声が出てしまう。
すごく、恥ずかしいと思ったけれど。その声に。君は随分、気を良くしたみたいで。
僕のを握って、激しく扱き始める。
物理的な刺激を与えられて。そこが鬱血してくのを感じる。
女性みたいに甲高い喘ぎを。間断無く、洩らし続ける僕が。
もう一人の自分に。どこか、遠くで。見つめられてる。
そんな、気がした。
「隆ちゃん。なんか、出てる。」
硬くなった、性器の先を。揉みしだくように弄りながら。面白そうに、いのちゃんが笑う。
「感じやすいんだね。」
そんなこと。仕方ない。
摩擦を与えられたら、たってしまうのは当然だし。
贔屓目に見るわけじゃないけれど。男同士のせいか。君の施す愛撫は。
かなり的を射ていて。要するに。
すごく。うまいと思った。
「脱がせちゃっていい?」
僕は頷いたんだろうか。覚えていない。
下着を下ろされて。下半身を剥き出しにされる。
君は、オイルみたいのをちゃんと用意していて。
その行動に。これはやっぱり、計画的犯行だったんだ。と。
妙に。納得してしまう自分がいた。
指先に取った、それを。
言葉にするのも憚られるような場所へ。塗り付けられる。
そんなところ。他人に触られたことなんか。勿論、無くて。
君は。抵抗を感じないんだろか。
汚いとか。思わないんだろうか。
最初は外側だけ弄っていた指が。やがて、中まで入ってくる。
変な感触が、気持ち悪くて。
こんなこと。普通に考えたら、絶対にありえないのに。
僕の口を突いたのは。どうしたって。感じてるようにしか聞こえない。
か細く、いやらしい。悲鳴だった。
きっと、こういうのを。「嬌声」って、言うんだ。
オイルが垂れて。シーツを汚してしまわないかが、気になる。
持ち主が、全く気に留めてない様子だし。いいのかな。
と、言うか。これは。
僕が、挿れられるんだよな。やっぱり。
思い当たった瞬間。変に、どきどきしてしまう。
今まで、君にされるなんて。考えたことも無かったけれど。
君が僕を見るたび。いつもの冷静な君からは、大方、予想も付かないような。
こんないやらしいことを、想像していたなんて。
僕のことを想って。抜いたりもしたのかな。
それって、ちょっと。興奮する。
君に指を突っ込まれて。あそこを、ぐちゃぐちゃに掻き回されながら。
そんなことばかり、考えていた。
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