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□僕たちの居た午後/reprise
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一応、最初に断っておくけど。

俺は。周りが思ってるほど、強くもないし。

いつだって、余裕綽々。

なんてことは、ない。

特に。君に、関しては。絶対。





毎度、適当な理由をつけて。隆一を、部屋に呼んで。

ただ。暇つぶしみたいな、セックスをするようになってから。だいぶ経つ。

一番はじめに、した後。

ひょっとしたら。君はもう、口も利いてくれなくなるんじゃないかって。怖かった。

だってさ。

あの時は。俺がほとんど、押し切った形だったし。

君は、いつも。過ぎ去ってしまってから、事の重大さに気付くから。

家まで送ってあげた、俺と別れて。ひとりになった後で。

ようやく。どうしよう、なんて。真っ青になって。

一通り、右往左往した挙句。

先日のあれは、無かったことにしましょう。

なんて、結論。導き出さないとも限らない。

そんな不安を抱きつつ。戦々恐々、電話してみたら。

君は、あっさりと。また俺の部屋に来ることを、承諾した。

そしたら、今度は。別の疑念が、湧いてくる。

隆ちゃんって。誰とでも、こんなことするのかな。

男と寝るのなんて。朝飯前なのかな。

君のこと。そういう風には、思いたくないけれど。

あまりにも。君が、けろっとしているせいで。

逆に。疑心暗鬼に陥ってしまう。

こんな、みっともない感情。知りたくなんか、なかった。

マジで、余裕無さすぎだ。自分。





顔にかけてやりたい。なんて、思ったのは。

決して。ガキの頃観た、AVの影響なんかじゃなくて。

君に対する、焦燥と。独占欲の表出。

そんな。もっともらしいものですら、なくて。

ただの、気まぐれ。

あ、出そう。って、なった瞬間。

なんとなく。君の口から、ペニスを引き抜いていた。

うわ、と声を上げて。反射的に瞼を閉じた、君の頬が。

白い精液で、まだらになる。

いつもは、口に出させてもらうけど。

隆一は。精液を飲むことには、慣れてないみたいだったから。

後から。ティッシュの上に、吐き出すようにさせていた。

顔に出すのなんて。はじめてだ。

「びっくりした。」

君は、眼を見開いて。俺の顔を見上げて。

睫毛をぱちぱちさせながら。笑う。

「ごめん。眼に入らなかった?」

ティッシュの箱を引き寄せて、君の頬を拭ってやる。

「大丈夫。ちょっと、焦ったけど。」

結膜炎になっちゃうもんね、という。何気無い台詞を。

俺は、聞き逃さない。

「なったこと、あんの?」

「え?」

「結膜炎。」

がんしゃ、されて。

「無いけど?」

質問の意図が、わからなかったのか。

ぽかんとして答える、君は。全然、まったく。気付いてない。

本当は。

俺が、はじめてじゃないよね?

何人くらい、経験あんの?

最後にしたの、いつ?

プライドも何もかも、かなぐり捨てた。そんな質問を。

ぶつけてやりたい。

俺たちってさ。

セフレ?

まさか。

訊けるはずない。

『そうですけど。何か?』

そんな答が、返って来ようものなら。

さすがに、一生。立ち直れない気がするから。





言わなくちゃ、だめかな。

そろそろ。





この際、恥を忍んで。当初の計画を、明かすなら。

俺は。君の方から、告らせるつもりでいた。

誘導尋問でも、姑息な罠でも。なんでもいい。

君に。すきだって。

言わせるつもりだったんだ。

誤算だった。

君は、俺が思うより。もっとずっと。

致命的に。人類の限界を超えて、鈍かった。

そういうわけだから。後は、言わなくてもわかる通り。

俺の企みは、まるごと水泡に帰してしまった。という、結論。

正直。

うまくいくって、思ってた。

君には、どこか。ケアレスなところがあるから。

その隙を、突いて。

君との距離を、一気に縮められるんじゃないかって。

失敗したけど。

いや。物理的距離は、縮まったのかもしれないけど。

俺が、本当にほしかったのは。

そんなんじゃなくて。





顔についた精液を、きれいに拭き取ってあげて。

隆一は、少し疲れているみたいだったから。

無理はさせたくないと思って。今日は、これでやめることにした。

軽くキスして、くっ付いて。ベッドに寝転がる。

真夏の午後。炎天下に自転車を漕いだ後で、飛び込む。小学校のプールを、思い出す。

冷たいシーツが、肌に心地良い。

「あっつい。」

「冷房入れる?」

リモコンを探そうとする、俺に。隆一は、首を振った。

「いいよ。それより、シャワー浴びよ。」

一緒に、って。意味だ。

少しも、恥ずかしげな素振り無く。ナチュラルに、そんなこと口にするから。

俺は、ますます。心配になるんだけどね。

もし、君が。俺以外の奴とも、そういうことしてたりしたら。

相手の男を、殺す。

・・・とかは、しないけど。

これでも、俺は。善良な一般市民だから。

でも、まあ。陰湿で、絶対法に触れないやり方で(ここが重要だ)。嫌がらせの一つや二つくらいは、してしまうかもしれない。

馬鹿だと思う。ほんと。

そもそも。セックス自体、馬鹿げてる。

あんな、変な格好して。

あんな、変な声出して。するんだから。

君以外となんて。

できるわけ、ないよ。





ぐるぐる、考え込んでいるうちに。

君の誘いに応えるタイミングを、完全に逃してしまった。

不自然な沈黙が、落ちる。

流された、もしくは、断られたと受け取ったのか。

怪訝そうな表情の、君を見て。

ふと。

君が、まだ。誰ともしてないことを、してやりたくなった。

勿論。俺とも、まだしてないこと。

「隆ちゃん。」

起き上がって。君の身体を、下に見て。

耳元に、唇を寄せて。

精一杯。君にも負けないくらいの、甘い声をつくって。

囁く。

「おしり、舐めてあげる。」





瞬間。君の口から、「ええ!?」という。素っ頓狂な悲鳴が上がって。

その反応だけで。それが未経験だってことは、充分に伝わったから。

単なる思い付きだったけど。やっぱりって、嬉しくなって。

だめだめ絶対やだ、なんて。暴れながら。

必死こいて、逃げ出そうとする様が。なんていうか。

ドS魂に、着火して。

本気で蹴ってくる、足を。こっちも、むきになって抑え付けた。

「なんで、嫌なの。いつも、指でいじってんじゃん。」

「そうだけど・・・」

目元を真っ赤にして。

なんか。今にも、泣きそうだ。

それを見下ろして、気分が高揚してくる。自分は。

大概、いい性格してるなと思う。

「おしり。舐められたこと、無いんだ。」

「無いよ。あるわけない。」

半泣きから。少しだけ、むっとした顔になる。

怒ったのかな。

ちょっと。強引すぎたかな。

君のこと。試したりして。

でも。

嫌われたくは、ない。

何もかも。そこに、帰結する。

所詮。俺の、負けなんだ。

君なんか。

好きに、なってしまった。

その、時点で。





「俺、言わなかったっけ?」

いのちゃんが。はじめてだって。





完敗って、やつだ。







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