SR

□Love Sickness unto Death
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「隆。俺が死んでも、いつまでも哀しんでちゃダメだからね。いつまでも泣いてちゃダメ。ましてや後を追おうなんて、絶対に許さないからね。隆がいなくなったら哀しむ人いっぱいいるんだから。隆の唄声をこの世から消してしまうなんて。そんなの、8つ目の大罪以外の何物でもないんだよ。それに」

「何言ってるの。杉ちゃん。」

ただの、風邪くらいで。

自分でもかなり遠回しだと思った。俺の告白は。

一瞬ぽかんとした後。呆れるようにため息をついた、隆の一言で。

無情にも。投げ返されることとなった。





災い転じて福と為す。とは。

まさに。今の状況を言うのかもしれない。

ここんところ仕事が混んでて。片付けても片付けても、次から次へと溜まってくばかりで。

なんでも完璧に仕上げないと気が済まない(と、真矢には言われる)性格が災いして、他人にはどうでもいいような細かい部分が気になって気になって。ストレスで、もう気が狂うんじゃないかって思ってた。そんな矢先。

熱を出して。俺は倒れた。

本来なら。かなりへこんでる。

当然だ。溜まった仕事は放置状態だし。こうして寝てる間にも、また次から次へと新しいオファーがやって来るわけだし。

好きでやってる仕事だけど。

こんな具合じゃ。自然と心も弱くなる。

淋しくて。不安で。心細くて。

誰かに傍にいてもらいたいなあ、なんて思ってた。俺の前に。

天使が舞い降りたのは。本日の昼下がり。





『誰か』なんて。白々しい単語を使ってしまったけれど。

本当は。傍にいてほしかったのなんて。ひとりしかいない。

その、世界中でたったひとりの人間が。偶然にも看病に来てくれるなんて。

神様。これが奇跡と呼ばれるものなのでしょうか。

高熱で真っ赤になった俺の顔を見るなり。隆は驚いたように、俺の額に手のひらを当ててきた。

ひんやりとして。気持ちのいい手。

しあわせすぎて。本当にもうすぐ、死んでしまうんじゃないかと。

空恐ろしい。

俺が寝込んでるなんて情報。いったいどこで仕入れたのかは、聞きそびれてしまったけれど。

まあ。そんなことはどうでもいい。

奇跡に理由なんて。必要無いのである。

病人でも食えそうなプリンやら。レトルトの粥やらを買ってきた隆は。

甲斐甲斐しく動いて。俺の世話をしてくれてる。

なんていうか。奇跡じゃないなら。夢なんじゃないだろうか。

熱のせいで、頭なんてぐずぐずに蕩けそうだし。こんな都合良すぎる夢を見たとしても。なんの不思議も無い。

ちなみに。途中で遮られてはしまったけれど。冒頭の長台詞は、この俺、杉原の。通算3749回目の告白。

3749回告白して、3749回とも。見事に玉砕を果たしている。

これだけアピールしまくってるのに。全く意識されてる素振りも無いなんて。

基本的に、俺は隆のこと。どんなことであれ、絶対悪くは言いたくないんだ。

ないんだけど。もし本当に。俺の気持ちに、これっぽっちも気付いてないんだとしたら。

いくらなんでも、ちょっと。いや。かなり相当。鈍すぎるってもんじゃないだろうか。

それとも。俺が必死で、もがく姿を。高みの見物とばかりに楽しんで。弄んでるのかなあ。

そうだとしたら。もう。死にたい。

待てよ。でも。

俺が寝込んでると知って。自分だって忙しいだろうに。わざわざ看病しに来てくれたってことは、だ。

ひょっとして。隆も。俺のこと。

「杉ちゃん?大丈夫?杉ちゃん?」

すっかり妄想の世界にトリップしていた俺の顔を。隆が覗き込んでくる。

いつもきらきらしてる虹彩が。今日は少しだけ。心配そうに曇ってて。

近いなあ。隆の顔。

なんかもう。このままキスしたいよ。俺。

「どうしたの?気分悪くなった?」

「悪っ!?悪いわけないじゃん!!せっかく隆が来てくれたってのに・・・」

途端にごほごほと咳き込んで。それ以上は言えなくなってしまった。

こんな肝心な時に・・・自重しろウイルスめ!!

と、心の中で悪態を吐いてみたものの。

咳が止まらない俺の背中を。隆の繊細な指先が、優しくさすってくれたものだから。

前言撤回。ウイルスに大感謝である。

この調子で。今日はとことん、隆に甘えてやろう。

3749回も告白して。全部。きれいさっぱり。流されてるんだ。

こんな時くらい、良い目に遭っても。きっと。ばちは当たらない。

そうですよね。神様。








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