SR

□ひみつの庭
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ようこそ。

ここは、僕らの。

ひみつの、庭。





杉ちゃんは。いつも、優しくて。

僕のことを、まるで。宝物のように、扱ってくれる。

でも。

セックスの時は。

少しだけ。怖いんだ。





僕を。真っ白なシーツの上に、繋ぎとめた後で。

その人は、告げる。

何もするな。

と。

それは。彼が僕に与えてくれる、唯一の命令だ。

全身の、力を抜いて。

指一本すら、動かすことなく。

一言も。発することなく。

息を。ひそめて。

まるで。

死体の、ように。

何もしないことは。確かに、楽ではあった。

上に乗って動くことや。口で射精を導くことは。

僕にとって。苦痛以外の、何物でもなかったし。

それ以前に、僕は。

同性とのセックスで。快感を得ることが、できない。

もしかしたら、僕は。ゲイじゃないのかも、しれない。

だけど。

女性とのセックスには。もっと。

比べものにならないくらいの。嫌悪感を、伴うのだから。

こうするのが、きっと。僕にとっての、ベストなんだと。

そう、思うしかない。気がする。





持ち上げられた。自分の足首を、見ている。

杉ちゃんが、動くのに合わせて。僕の爪先も、ゆらゆら揺れる。

僕は、ただ。それを、ぼんやりと。見つめて。

あとは。杉ちゃんの。

苦しそうに。でもとても、気持ち良さそうに、歪む。

きれいな顔を、観察するんだ。

僕のからだで、気持ち良くなってくれるのが。

少し、照れくさいけれど。やっぱり、嬉しくて。

大好きだよって。言ってあげたいけれど。

命令に、背くわけにはいかないから。

黙って、彼を。受け容れ続ける。

杉ちゃんの、望むことは。

僕自身の、望むことでもあるから。

ふたりの意志が、一致している限り。

自由は、損なわれない。

全面的に、隷属しているようでありながら。

その実。僕は。

誰よりも。自由なのかも、しれない。





こんな、あいまいな存在の。僕でいいと、言ってくれる。

杉ちゃんのことが。僕も、本当に。大好きだ。

決して動くな、と。命じておいて。

杉ちゃんは、時々。僕の首を、両手で絞めたりも、する。

さすがに。苦しくて。痛くて。

悲鳴が洩れそうに、なるのだけれど。

そのたびに。杉ちゃんの命令を、思い出すから。

文字通り、必死で。唇を、噛み締めるんだ。

うまく、できたら。その時は。

セックスが、終わってからだけど。ご褒美に。

柔らかく、頭を撫でてくれる。

キスよりも。あそこに突っ込まれるよりも。

この瞬間が。僕はいちばん、気持ちいい。

だから。今日も、また。

僕は、彼の前で。死体を、演じる。

もっともっと。満足してもらって。

もっともっと。かわいがって、もらえるように。





杉ちゃんには。僕のことだけ、見ててほしいと思う。

どうしたら。完璧に、彼を独占できるんだろう。

もし、僕が。ほんものの、死体になったら。

杉ちゃんは。悦んで、くれるかな。

死体になった、僕を。

かわいがって、くれるのかな。

「ねえ。杉ちゃん。」

「なに?」

「俺なんかの、どこがいいの。」

「どうしたの。急に。」

だって。

「俺が、言われた通りにしてるから。だから、好き?」

「隆。」

僕の頬に、キスをくれながら。杉ちゃんは。

「隆はね、きれいだから。だから。好きなんだよ。」

きれい。

その意味が、僕にはわからなかった。

「隆の身体は、汚されてないから。俺は、そんなきれいな。隆が、好き。」

杉ちゃんは。

セックスのことを、言ってるのだろうか。

僕が、抱いている。セックスへの嫌悪感を、受け容れて。

違う。

そうじゃなくて。むしろ、そんな僕だからこそ。

好きなんだって。

そう、言ってくれるんだろうか。

嬉しい。

僕は、なんて。

しあわせ、なんだろう。





大好きで。大好きで。

居ても立ってもいられない。気持ちが込み上げて。

自分から。裸の胸に、すり寄った。

杉ちゃんの、におい。

肺いっぱいに、吸い込む。

シーツが、素肌に擦れて。少しだけ、くすぐったかった。

「隆。ちゃんと、服着て。このまま寝たら、風邪ひくよ。」

杉ちゃんは。

いつも。優しい。

僕を。何より、大切に。してくれる。

誰も。信じられなくて。

誰からも。必要と、されなくて。

愛されなくて。

それでも。生きることを、赦してほしくて。

臆病で。あんなにも、醜かった。

僕を。

うつくしく、変えてくれた。

だから。杉ちゃんのためなら。

少しくらい。痛くても。怖くても。

苦しくても。

きっと。我慢できると、思うんだ。

僕が。

僕で、いられなくなっても。

愛されるなら。それで、いい。

僕と、彼だけの。それは。

とても、大切な。ひみつ、なんだ。





今夜も。

空白になる、意識の果てで。

あの人の声が、聞こえる。

「隆。すごく、きれい。」

しあわせ、だった。

もう。死んでもいいと、思うくらい。

命令通り。微笑むこともせず。

いとしさを、声にすることも無く。

そうして。僕は。

目覚めることさえ。記憶から、失って。





僕は、彼の。

いちばん、きれいな。宝物に、なった。





わすれないよ。

隆のこと。








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