IR続き物
□ F ウェンディ
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その夜は、なんとなくセックスしたい気分になったので。彼女を家に呼んだ。
短くない付き合いだから。彼女の方も、俺がしたがってるのを察してたみたいで。
招き入れてから話もそこそこに、二人してベッドに雪崩れ込む。
彼女の身体は気持ちいい。
どこもかしこもふわふわしてて。温かくて。おいしそうで。
やっぱりいいよなあ、なんて。しみじみと噛み締めながら。
隆一のことなんて。すっかり忘れてた。
きれいさっぱり。頭の中から消え去ってた。はずだったのに。
挿れる前に。彼女が俺のを舐めようとして、顔を近付けてきたから。
途端に。こないだの、君とのあれやこれが。もう嵐のごとく、脳裏にフラッシュバックして。
舌を絡ませた時に洩れた、吐息の熱っぽさとか。
「ごめん。」と俯いた。君の伏せた睫毛とか。唾液で濡れた唇とか。
俺のに絡み付いて擦り上げた、白い指先とかが。
単なる記憶に過ぎないのに。信じられないくらいリアルな快感を呼び覚まして。それが恐ろしくなって。
咄嗟に口が動いて。「今日はいい。」ってうそぶきながら、思わず身体を引いてしまった。
やっぱり。
簡単に消し去れるわけがない。
あんな。俺の人生においてこれから先も、ひょっとしたらナンバー1に君臨し続けるかもしれない。そんな衝撃的な事件。
あれを超えられるとしたら。それこそ、君とセックスする以外には無いのかも。
つか。マジで笑えない。
彼女としてる時に、隆一の顔を思い出すなんて。
勃起した俺の性器を下着から取り出して。思い詰めたような真っ黒の瞳で。躊躇いがちに唇を付けた。あの瞬間が。
どこまでも俺の理性を追い詰めて。ひっくり返して。ぐちゃぐちゃにかき回して。
君を汚したい欲望が。確かに湧き起こるのを感じて。
君の喘ぎ声が聴きたくて。
欲望は加速度的に膨らんで。持て余したそれは、行き場を失くして。さまよって。
解き放つ方法なんて。それ以外には知らないから。
だから。めちゃくちゃに彼女を抱いた。
君のまぼろしを、よごした。
俺がいろんなことへの罪悪感やら妄想やらで、悶え苦しんだり気持ちよくなったりしてる間。
君は。何を思って過ごしてたのかな。
少しは悩んだり辛くなったりしてくれたかな。
俺に会いたいって。思い出したりもしたかな。
あの日、もし。君の唐突な質問に、肯定の言葉を返していたら。君はどうするつもりだったんだろう。
ひょっとしたら君も。自分の気持ちを伝えるつもりだったんだろうか。
そう。あんなことさえ無ければ。
考えてみると。俺の気持ちだけ尋ねておいて、自分は一切口を噤んでいるなんて。そんなの不公平だ。
無意識なのかもしれないけど。計算だったとしたら、君は相当性悪だと思う。
そりゃあ、いくら親しい間柄とは言え。同じ男にフェラなんてするからには、多少なりとも好意を持っていなけりゃできないことくらいは想像に難くないけど。
いや。多少の好意なんてレベルじゃあ無理だ。普通はできることじゃない。
俺の隣で君は、今にも泣き出しそうな顔して。笑ってた。
『まずいよね。こんなの。』 なんて。
どんな気持ちで、あの言葉を紡いだんだろう。
君があの時。何を考えてたのか。
今。何を思ってるのか。
君にとって。俺とのことがどんな意味を持ったのか。
知りたい。
理解とか共感とか。できるかはわからないけど。だからって、いつまでもこのままでいいわけない。
だって俺はまだ。大切なことを。知らなければならないことを、何ひとつ知らない。
こうして君から逃げていても。きっと、答は出ないままだ。
携帯を取り上げて、隆一のメモリを呼び出す。
君のことも。自分のことも。
もっともっと。俺は知りたい。
「もしもし。」
いのちゃん?
その瞬間。
俺を連れ去る感覚すべてに。君の鼓動が満ちて、溢れた。
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