JR@

□ 葬 春
2ページ/2ページ








切れた唇で、施される。君の愛撫は。

泣きたいくらいに、緩慢で。穏やかで。

僕に、復讐できるチャンスを。君は自ら、ふいにした。

もっと。

ずっと。手ひどく、犯して。

ずたずたにしてくれたら。よかったのに。

腫れ上がった、君の瞼は。

ペニスが擦れる快感と。執拗に重ねられた、痛みとの狭間で。歪む。

呼応するように。憎しみを、募らせる。僕は。

剥き出しの肩口に、歯を立てると。

渾身の力を込めて。噛みちぎった。

激痛に。君は、声を殺し。

僕の、こころも。

いっしょに。しんだ。







この世界で。いちばん、要らない。僕と。

この世界で。いちばん、死んでほしい。きみ。

僕らの過ごす、未来は。売れ残りの、ロリポップみたいに。

鮮やかで、醜い。マーブル模様を、描いて。

決して、ひとつになることも。完全に、隔てられてしまうことも。叶わない。

そうして。僕の鼓膜を、突き破るのは。

絶望の、羽音だけになる。

ライブの成功を。嬉しそうに、話す君に。

気が。狂いそうになる。

「よかったな。」

僕を、励ます。君の偽善に。

すべてを。吐き出してしまいそうに、なる。

僕の、いちばんほしい言葉を。君は。

永遠に。口にすることは、無いのだろう。







ひとりで、泣くのは。いやだ。







向かい合って。君がつくった、ビーフシチューを食べて。

さっきまで。確かに、僕は。笑っていた、はずなのに。

なんの、前触れも無く。君の口元から、笑みが消えて。

瞳の色が。明らかな、見慣れた困惑に染まって。

テーブル越し、手を伸ばして。

頬に、触れられてから。気付く。

僕は、また。

泣いて、いるんだ。

「ごめんね。」

口先ばかりの、謝罪をする。僕に。

ただ、君は。あいまいに、淋しげな笑顔を返す。

僕が。君を、憎んでいることに。

君は。気付いているんだろうか。

きっと。

伝わってなんか、ない。

そう、考えたら。余計に、涙が止まらなくなって。

君の、シチューが。食べられない。

せっかく。

僕を、元気付けようとして。一生懸命、つくってくれたのに。

冷めてしまうなんて。

かなしいよ。

とうとう、しゃくりあげてしまう。僕の隣に。

君の身体が、滑り込む。

そして、また。

何も言わずに。僕の背中を、抱きしめ続けた。

僕が、唄えなくなっても。

君は、まだ。傍に、いてくれるのかな。

僕が、死んだら。

君も。後を、追ってくれるのかな。

わかってる。

そんな時は。

永遠に。訪れないってこと。

僕の絶望を、受け容れない。君が。

憎い。

だめだ。

今日も、また。

僕は、君を。殴ってしまう。

「こんな人間で。ごめん。」

君と、出逢ってから。僕は。

もう。一生分の後悔を、し尽くさねばならなかった。

冷たいタオルが。熱を持った瞼に、そっと当てられる。

こんな僕にまで、やさしすぎる。愚かな、君。

明日の撮影に、響くから。もう、泣きやまなくちゃいけない。

とびきりの、笑顔のつもりで。返したら。

君は、もっと苦しげな顔になって。膝の上に、僕を抱え上げる。

僕の瞳を。まっすぐに、見つめた。

傷だらけの唇が。かすかに、動く。

僕が、奪った。

君のこえ。

それは。とても、たいせつな言葉だった。はずなのに。

僕には、何も。

聞こえなかった。







『そのままで、いいんだ。』

お前は。そのままで。







君なんか。

僕は、大嫌いなのに。

だって、君は。僕を、つらい目にばかり。遭わせる。

君の笑顔が。僕を、追い詰める。

君の歓びが。僕を、疲れさせる。

君の輝きが。

僕に、手を。上げさせる。

いつだって。僕が、切望していることは。実らない。

僕の期待を。踏みにじり。

壊す。

君なんか。

死ねばいい。

僕なんか。

死ねばいい。

この、感情ごと。

消えればいい。







だいきらいだあいしてるしねばいいでもすきなんださびしいいっしょにいたいしにたくないうたなんかやめるひとりはいやだしあわせになりたいきみとしにたいきみになりたいきみに







あいされたい







だから。君の、腕の中。

泣きながら、僕は。喪に服す。







あの。散り逝く、春の日に。











前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ