BLEACH
□哀哭幻夢
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恋、愛とは当人たちの心から生まれる、ごくありふれた感情であり、存在する魂全てが求める究極の美学でもある。
だが中には打算や気紛れと言ったものから初まるものもあった。
衣擦れの音が遠く微かに耳に届く。
夢か現か判然としない、それは本当に微かなものだった。
持ち上げた瞼が異様に重く、体も思うようには動かない。
実際、彼の体には包帯が巻かれ、無事とは言い難い有り様だった。
ぼやけた視界の端にちらちらと映る人影が、花を活けているのだと認識できたのは焦点があってからだった。
「松本……」
「隊長!」
松本と呼ばれた女性は手に持っていた花瓶を置くと枕元へと駆け寄った。
「……四番隊、か」
「はい、少し待っていてください。四番隊の隊士を呼んできます」
視界から消えた彼女が人を呼ぶ声が聞こえ、日番谷は静かに呼び覚まされる記憶に眉を寄せた。
勝負にすらならなかった。
藍染の離反。
そして、血に沈む自らの……。
「雛、森……!」
身に走る痛みすら凌駕する焦燥。
起き上がろうとすれど体が言うこと聞かない。
霊圧の乱れを感じ取った松本は、四番隊隊士と共に室内へと駆け込んだ。
「隊長!今は……」
無理矢理体を起こそうとする日番谷を押し止めようと、松本が手を出すと、日番谷はそれを掴んだ。
「雛森は……!」
眼光鋭い眼差しに、一瞬だが怯む。
普段は冷静であり時に冷酷なまでの冷めた瞳が、今はただ必死に幼馴染みの命を案じている。
冷徹な仮面から覗く素顔は熱い。
「雛森は命をとりとめました……藍染隊長達は……」
言葉が詰まる。
藍染並びに市丸、東仙の反逆及び宣戦布告ともとれる行動は、意識の無かった日番谷や雛森が知るはずもない。
市丸の最後に残した言葉が胸を刺す。
松本の顔に浮かぶ苦いもの、そして、雛森のことを耳にして、日番谷の頭から熱い何かが急激に冷めていく。
部屋の出入口付近で四番隊隊士が肩身を狭くしているのを目端に捕え、日番谷は静かに、それでいて絶対的な威厳を含ませた声で松本に命じた。
「松本、あとで詳しく話せ」
「はい……」
傷つこうとも揺らぎのない心。
一時失った冷静さはすでに元に戻っている。
幼い出で立ちからは考えられない程の精神力の強さに、知らず松本はひやりと汗を流すのだった。