小説

□春の華
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別に花は嫌いじゃない。
周りには、たまに「弱い」と言う奴もいるけれど
俺は違うんじゃないかと思う。
だって花はいつも力強く咲いてるじゃないか・・・



春の華 〜見初華〜


「で、お偉いさんの接待で色街に行くんだけどサスケ君はどうする?」
丸い眼鏡をかけた青年カブトは、そう言って傍らの少年を見やる。
サスケと呼ばれた少年は鬱陶しそうに眼鏡の青年を見るとすぐにまた視線を逸らす。
「行くかよ、そんなとこ」
そういうと、サスケは立ち去ろうとする。
「じゃあ大蛇丸様と二人きりになるけれど」
その言葉にサスケの動きがピタリと止まる。
大蛇丸とは、この二人の上司に当たる。
仕事に関しては申し分ないほど頭の回る切れ者なのだが、一つ問題がある。
それは男色主義者というものだ。
ただ単にそれだけならまだ良いものの、大蛇丸は今、サスケが大のお気に入りなのである。
サスケはそんな大蛇丸と二人きりで仕事をするのは御免だった。
「・・・じゃあついて行く・・・。」
色街など全く持って興味がなかったが、
大蛇丸と一緒にいるよりはましだと思ったのである。


「どうだい?初めての色街は」
茶化すように聞いてくるカブトに対して、サスケは無表情のまま答える。
「べつに」
「なんだい?その答え方は。お気に召す娘とかいないのかい?」
サスケはふうと息をつくと立ち上がる。
「興味ねぇ」
「どこ行くんだい?」
「風にあたってくる」
そういうが早いかサスケはその部屋を後にした。

「よくこんな所で楽しめるな・・・」
廊下ですれ違う者達を見てぽつりと呟く。
女なんか買って何が楽しいのか。
これなら何処ぞの飲み屋に行って飲んだ方がまだマシだ。
ふわりと風が頬をなぜる。
『少し飲み過ぎたか・・・?』
元々酒には強い方だが、今日はやることもなく酒ばかり飲んでいたので
珍しく酔いが回ってきたらしい。
火照った体にやわらかい風が触れて心地が良い。
『このまま帰るかな』
そんなことを思い、適当に歩みを進める。

シャラン・・・

「なんの音だ?」
あまり耳にしたことのない音が聞こえ、
サスケは音の方へと視線を移す。

シャラン・・・シャラ・・・

音はどんどん近づいて来る。
そしてその音の正体が現れる。
サスケが目にしたのは柔らかい色を持った花魁。
瞳の色は薄い鶯色。着物は紅で固めてあるようだ。
そして何より印象に残ったのは淡桃色の長い髪・・・。
年の頃はサスケと変わらぬ程だった。
その浮き世から離れたような姿に、サスケは知らず知らずのうちに息を飲んだ。
そしてその姿は壁の向こうへと消えて行く。
視界から花魁が消え、現実に戻ったかのようにサスケは自己嫌悪した。
ついさっき、自分は興味がないと言ったのに。
だが、あのやわらかい桃色が頭から離れない。
『また・・・会いたいな』
何故他の者達が花魁遊びにはまるのか、それが少し分かったような気がした。
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