小説

□春の華
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人物に対して「美しい」と感じたのは
きっと初めてのことだ



春の華 〜温情華〜


カラリ。
「あぁ、サスケ君。戻ったのかい?」
カブトは陽気そうにはたまた茶化すかのようにヘラリと笑いながらそう言った。
「ちょうどよかった。此方にいるのは、此処の花形で綱火太夫と言うんだ」
綱火と呼ばれた女は優雅にサスケの方に手を付いて挨拶をするとニコリと微笑んだ。
「どうも。付き添いでこんな所まで連れてこられるなんて可哀相にねぇ」
気の強そうな声色でそう言い放つとカブトの方に向き直る。
「あんたもこんな花魁に興味無さそうな子を誘うんじゃないよ!」
「太夫」というのは、花魁の中でも位が高い存在と聞いている。
位が高いと気も高くなるのだろうか?
綱火の気迫に押されて黙り込んでいるとそれに気づいたかのように綱火は手を叩く。
「さぁさ、折角来てくれたんだ。同い年ぐらいの娘を呼んだげるよ」
すると続くように障子が開く。
「お呼びに預かりました。お初にお目に掛かります、咲夜にございます」
そう言い、三つ指で挨拶をした花魁は、淡桃色の髪をサラリと揺らしふわりと笑いかけてきた。
「・・・ッあ!!!?」
先程廊下で見かけたのと同じ姿を前にし、サスケは思わず変な声を上げる。
「お客さんどうかしたのかい?」
怪訝そうな顔をする太夫に対し、落ち着こうと言葉を返す。
「あ・・・・いや、何でもない」
言い終わるとチラリと咲夜の方を見やる。
同じタイミングで咲夜も此方を見た。
『!うわ・・・』
一瞬慌てた素振りを見せたサスケにニコリと笑顔を向ける。
「お幾つに成るんですか?」
仕事だからだろう。咲夜はサスケの側へと寄ってきた。
大きくはだけた胸元に自然と目が行き、不自然に顔を逸らす。
「・・・16だ」
「そうなんですか!私も16なんですよ」
年齢が同じと分かったからか、咲夜の顔が無邪気に綻ぶ。
「あ、お名前伺ってませんでしたね。伺ってもよろしいですか?」
首を傾げつつ、自分を見上げてくる。
これも男を落とすための技なのか。
「・・・・うちはサスケだ」
それを聞くとまた笑顔を向けられる。
「サスケ様ですね。素敵なお名前ですね」
“素敵な名前”なんてよく使う決まり文句だ。
仕事で言ってるのは丸分かり。
なのに何故こんなにも自分は嬉しく感じているのだろう?
「サスケ様はお酒は大丈夫な方ですか?」
「あぁ」
聞くと笑顔でじゃあどうぞ、と御猪口に酒を注ぎ込む。
注ぎ込まれたそれを一気に口の中に流し込み、また咲夜の前に御猪口を差し出す。
「いい飲みっぷりですね。でも無理はしないで下さいね」
などと言いながらまた御猪口へと酒を注ぎ込む。
甘い香りが口から鼻、そして全身へと駆け巡る。
夢のような一時。
『ああ、こんな時間が続けばいいのに・・・』
自分らしくない考えだとは分かっていたが、それでも今の間だけは
許されるような、そんな気がしていた・・・・―――。
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