詩愛の文。

□少女のお部屋。
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「何やってるんですか、美穂姉さん・・この人、さっきからずっとここにいましたよ?」
呆れ気味に少女が言う。
「まあまあ、そんな事は気にしないで。それよりも、ここの事をこの子に教えてあげなくちゃね。・・私は美穂。苗字は・・ここで使う事はまずないから忘れちゃったわ。よろしくね、えっと・・」
「香、です。」
「香ちゃん!いい名前ね。これからどうぞよろしく。・・ふふ。」
と、また怪しげな笑みをうかべながら、『美穂姉さん』は理枝の横に座った。
「ところで、リィラちゃんは?」
そのまま何かを語り始めようとしていた美穂に、理枝が聞いた。
聞きなれないカタカナの名前。ここにはまだ他に人がいるようだ。・・入ったときは人の気配なんてほとんどしなかったけれど。
「さっきも見に行ってたけど、あの子部屋から出てこないのよ。大丈夫かしら・・。」
「そうですか・・じゃあ、私たちで先に香ちゃんに話しておきましょう。」
そうね、と美穂・・さんが答えると同時に二人は改まった様子でこちらを見た。
「あのね、香ちゃん、えっとぉ・・なんだか、自覚が無いみたいだから言いにくいんだけど、・・貴方、ここがどこかは分からないのよね?」
ここは・・どう見ても普通の学生の部屋。でも、私の部屋でもなければ、友達の部屋でもない。絶対、私はここに今日初めて来た。
「分かりません。」
私の答えに、なぜか二人は何も言わなくなった。ここはそんなに言いづらい場所らしい。
ここが普通の場所じゃないのはすぐに分かる。
大きなお城、腕から血を流しっぱなしで平気にしている少女。
夢、としか考えられない。
夢じゃないなら・・薬で頭がふらふらしてる間に何者かに連れ去られて、変な実験施設に誘導されて、目の前にいるのは私の前に連れ去られてきた被害者で・・。
・・やばい。何か現実離れした話だけど、何か、ちょっとありえそう・・。

「ここはね、死と生の狭間みたいなところかな。」
急に理枝が口を開いた。
「って言っても、生きてる人はあまり来ないけどね。すぐに生まれ変われない人が来る場所。例えば・・私みたいに、死んだ時の記憶が消せない人間の来る所、だね。」
想像よりもずっと現実離れしている話を、理枝は感情を押し殺しているかのような笑顔で話した。
「生まれ変わるときに生前の記憶があまりにはっきり残ってると不都合らしくて、ここで記憶が薄れるまで過ごさなきゃいけないの。普通は死んだら自分の好きな姿になれるんだけど・・私なんか死んだ時の傷がまだ塞がってなくて。・・もう死んでるから、手当てはしなくて良いのが便利だよ?それで、香ちゃんがここに来たのは、その、多分・・」
そこまで言うと理枝は下を向いて黙ってしまった。
もちろん、大体何を言いたいかは分かったけど。
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