詩愛の文。

□少女のお部屋。
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・・・私は、死んだ。

考えてみれば、大体それでつじつまが合う。
私は死のうとしていたんだし、急に部屋から見た事もない場所に通じてるなんて現実であるわけないし。

そう思うと、なんだか急に嬉しくなってきた。
もうあの場所に戻らなくていい。
ここで、生前の記憶とかいうのを消していけばいいだけ。
どうせ忘れたかった事ばかりなんだし、すぐに消せるはず。そうすれば私は生まれ変わって、私以外の人間になれる。

「香ちゃん、貴方は・・」
美穂が、理枝の言いかけていた事の続きを話し始めた。
「ショックかもしれないけど・・死んだ、っていう可能性が高いのよ・・。あ、でもたまに間違えて迷い込む人もいない訳じゃないのよ?まだ分からないわ。だから、落ち込まないで・・」
美穂さんは、私の様子を覗いながら、一言一言を慎重に言った。
「迷い込む人って、どの位いるんですか?」
私が聞くと、美穂さんは、
「え?え・・と、結構!結構いるわ!うん。・・ねぇ、理枝ちゃん?」
「あ、・・うん、いるいる!だから大丈夫だよ。香ちゃんは、迷い込んだだけだと思うよ。」
二人の様子を見ると、迷い込む人はあまりいないようだ。
・・私にとってはその方が嬉しいけれど。
「・・香、ちゃん?・・貴方、死ぬような覚えはある?例えば・・車に、轢かれたとか?」
美穂さんが聞いた。
・・勿論よ。
でも、この人達は自殺で死んだのではなさそうだ。自殺したなんて言ったら何を言われるか分からない。
だからといって覚えがないなんて言ったら更に気を遣われそうだし、事故に遭った事にでもしておいた方が良さそうだ。
「そういえば、車が猛スピードで近づいて来たような気がします。」
私が適当に作った話を、二人は真剣に聞いていた。罪悪感が芽生える位に。
「その後は覚えてませんけど、多分・・それで死んだ、んだと思います。」

「じゃあ、香ちゃんは迷い込んだわけじゃないみたいね。ふふ、やっぱり貴方は私達の仲間ね。」
いつもの笑い方で、美穂さんは微笑んだ。
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