Dream

□imitation rainy
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imitation rainy...










泥の様な雨が降る。
否、空の無いこの地底の巣窟では、雨など降ることは有り得ないからこの水は雨と形容することは出来ないのかもしれない。
剥き出しになった天井に連なった配水管から、水が漏れて降り注ぐ。
空気中の汚れと相まって滴る薄茶けたそれは、血に汚れた体を洗い流すには相応しい。
雨の様な水が頬に当たり、ネロはゆっくりと目蓋を閉じた。



雨とは、なんだろう。



この狭い地帝国には、文献でしか分からない事柄が多い。
主には自然現象で、空も海も風もない密閉された空間では、知る事も叶わないだろう。
それについては大した感慨もないが、ふと、疑問になるときがたまにあった。



―――雨が好きだった女を知っている。






「ネロ、寝ているのか?」

壁に寄り掛かり目蓋を閉じていたせいだろうか、ゆっくりと歩いてきたヴァイスにそう声をかけられる。

「いいえ、兄さん。起きていますよ」
「起きているならこの部屋から出た方がいい。パイプが劣化していたんだな。水が漏れて床中水浸しだ」

早く修理させないといけないな、と舌打ち混じりで言った言葉はネロには届いていないようで、相変わらず壁に背を預け、今度は目を開けて配水管を見ていた。
何ヶ所にも亀裂が入ったパイプに水滴が絡まる。それが次第に大きな水の固まりになっていき、しまいには重力に従って床に吸い込まれていった。




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