Dream

□imitation rainy
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過去。
過ぎ去ったものに興味が無いから正確にはいつだったのかは分からない。
あの日も同じ様に無機質な狭い小部屋には雨が降っていた。それはしかし、紅い雨。

原因は、やはり覚えていない。
覚えているのは扉を開けた瞬間の鮮烈なまでの赤、紅、朱。
頸動脈を切断され天井まで血液を噴射させた死体が床に転がり、その横には無造作に片足だけが添えられていた。
鮮やかな赤とむせ返る程の鉄の匂いに、さすがのネロも少し顔をしかめる。
何人もの血が飛び散ったのだろう、床はおろか壁という壁、天井すらも赤く彩られていた。
天井から滴る血にネロは露骨に眉間に皺を寄せ嫌悪感を顕にする。誰が好き好んで他人の血を浴びたがるだろうか。




「…………綺麗なのに」


声が聞こえた先、足元に目をやると血溜りの中微かに震える唇で微笑む女が横たわっていた。

「生きていたんですか」

あまりにも失礼な、あまりにも率直な言葉が唇からするりと滑り落ちる。
生存者など一人もいないと思っていたから、心の底からの感嘆だった。

「生きてますよ。でも、もうすぐ死にます。
内蔵損傷なんで結構意識ははっきりしてますよ?」

かなり痛いですけど、と言って女はまた笑う。
天井からまた血が垂れ落ちて女の顔に着地、目線で追えば何度か見かけたことのある顔で、そこで初めてネロは見知った顔だということに気付いた。

「貴方は……」
「何度かお会いしたことがありますよね、ネロさん。
まさかツヴィエートの貴方に、臨終を看取って頂けるなんて思ってもみませんでしたが」

女はまた、笑う。
赤い血に彩られた彼女の笑い顔は、暗い地下に似付かわしくない晴れ晴れとした優しい笑顔だった。





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