Dream
□imitation rainy
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暫らくの沈黙。とうとう命尽きたかと少し身を屈めて顔を覗き込めば焦点の合わない瞳が、それでもまだ輝きを失わず生を主張していた。
ふと、青冷めた唇が震える。
震えるかさついた口から紡がれた言葉は擦れて、酷く聞き取り辛かった。
「…好き」
呟いた彼女は、やはりゆっくりともう一度だけ笑う。
「雨がですか?」
ネロが問い返した言葉を聞く者は誰も居なかった。
女は目を開きネロを見つめたままこと切れていた。
もう、投影されることのない眼球は鏡の様にネロを写し込み反射していた。
その目に光は亡く、只虚ろな闇が漂っているに過ぎない。
雨の様に降り注いでいた血液は乾き、赤茶けた固体となって彼女の頬にこびり付いていた。
臨終を看取ったのだから、と目蓋を下ろしてやろうとしてふと気付く。
そういえばこの女の名前すら知らなかったことに。