★文【パラレル】★

□海のみえる丘で
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パァンッ!!

「ハァッ・・ハァ、ハァ」
「ゼェゼェゼェ・・!!兄貴、もう休憩しやしょう!!お昼ですし!!」

町から少し離れた所にある道場から賑やかな声が聞こえてくる。
道場の中には胴着を身に付け、竹刀を持った人達がいた。ここは剣道の道場のようである。
今しがた息も切れ切れに言葉を発した二人組を呆れたように見下ろすゾロの姿があった。

「・・ったく、スタミナ無ェなぁ・・そんなんで次の大会出れると思ってんのか?」

竹刀を肩に担ぎ面を外して、ゾロは顔に滴る汗を手で拭った。

「兄貴は、学校の部活よりも厳しいんっスよ!!今日は自主練ッスよ!?わかってるんすか!!」
「・・・・・ハァ・・知ってるよ、じゃあ昼飯にしよう」
「流石兄貴!!飯だ飯だ〜〜!!」

ゾロの事を兄貴と呼び慕う二人、ヨサクとジョニーと共に今日は自主練習をしていたゾロは道場を見回した。

“先生・・どこ行ったんだ?”

ここの道場の師範である先生の姿がなく、少しがっかりした。

「・・・そういえばこの町に新しい人が引越ししてきたんすよ」

ヨサクとジョニーの作った炒飯を頬張りながらゾロはヨサクの話に耳を傾けた。

「へぇ。こんな何も無い所に越してくるなんて物好きもいるもんだな」
「そういう兄貴こそここに自分から来たんじゃないですか!!」
「・・俺は先生がここに移り住むって言うから付いてきたんだ。大体小学生の時の話だろ」
「俺達はその小学生にこてんぱんにやられたんだよな〜〜」
「へっ、元からの力の違いなんだよ」
「ひで〜〜」

いつものように会話を楽しみ、ヨサクとジョニーは昼飯が終わった後は帰ってしまった。

「はぁ・・暇だな〜〜・・」

筋トレは午前中に済ましてしまった。ランニングも早朝にしただろ、で・・素振りも1000回終わって・・・・暇になった訳か。
実戦練習はいつも師範が居るときにしかしないゾロは先生が帰ってくるまで休憩しようと横になった。
引戸が全て開放された道場はそよそよと涼しい風が入ってくる。
すぐに襲ってきた眠気に身を委ね、ゾロは目を閉じた。













“ゾロ・・・・。”







“逢いに来たぞ・・・!!”




















「・・・・ロ、ゾロ。起きなさい」

身体を揺すられゾロは目を開いた。
そよぐ風は変わらず、ゾロの目の前には優しく笑った先生の姿があった。

「・・・・・・先生」
「遅くなってしまったね。皆帰ってしまったようだ。西瓜を貰いに行っていたのだが・・せっかくだから食べるかい」
「・・・・、はい」
「では準備してこよう」
「・・・・」

西瓜の入った袋を持ち上げ、先生と呼ばれた男性は道場の奥の台所へと足を出し、ゾロに背中を向ける。

「先生」

途端、ゾロが男性を呼ぶ。
足を止めた男性はいつもと同じように笑顔でゾロを見つめるのだ。


「まだ俺は弱いですか」
「・・・・。」
「日本一とは・・そんなに遠いんですか、先生」
「・・・・あぁ、遠い」
「・・・・っ。」
「だが確実に一歩一歩、近づいている事は確かだ。焦らないで、自分の力を信じなさい。君には雑念が多すぎる」
「雑念・・・・?」
「気になる事があるのだろう?最近、100%集中出来ていない。それを解決してから、剣道に向き合いなさい」
「・・・・それは、それまで練習するなと言うことですか」
「基礎練習は行いなさい。しかし実戦は・・すべきでない。怪我をするよ、いつか」
「・・・・っ・・・・・・・・わかりました」
「大丈夫、きっと些細な事だ。これから歩むべき君の人生に比べたらね」
「はい、ありがとうございます」

もやもやしていた気持ちがスッと楽になり、ゾロは海を見る。
明日は海に行こう。




本当の自分がそこにいる気がする





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