★文【パラレル】★
□お前と猫な俺と
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お前が一緒に暮らそうって言ってくれた時、俺は幸せだった
働く時間帯が真逆で、一緒にいれる時間が短い俺にお前が猫を拾ってきた時、俺は嬉しかった
いつでも俺の事を想ってくれるお前が、愛しくて仕方がなかった
この幸せがこれからも一生続くと信じて疑わなかった
だけど
昼が過ぎて、お前が会社に行こうと扉を開けた途端道路に飛び出した猫を何の戸惑い無く追ったお前を信じられない目で見つめた
パァーー!!!!
名前を叫ぼうとした瞬間、衝突音と共にお前とお前の突き飛ばした猫が宙に飛んだのがスローモーションのように目に焼き付く
全て、失った
そう思った
俺の視界から色が消えた
その後の事はよく覚えていない
俺は横になったお前を見つめる事しか出来ずに固まっていた
周りにいた近所の人達が救急車を呼び、俺は連れ添いとして強引に救急車に乗せられる
ふと外に目をやるとぐったりと横になった猫がいた
しかしこの時はお前の事しか頭になくて、すぐに目を逸らしてしまった
俺は、飼い主失格だと思った
両手はお前の血で汚れていた
病院に担ぎ込まれ奇跡的に一命は取り留めたらしいが、頭への衝撃が強く、このまま目を覚まさないかもしれないと医師に告げられた
正直俺はそれでもいいと思った
お前が、俺の前からいなくなる事が考えられなかったから
静かになった病室で、俺は沢山の管に繋がれたお前を見つめる
まるで、眠っているかのような表情にやっと息を吐くことを思い出す
面会時間は過ぎており、明日朝一番で友人に連絡しなければ、とぼんやり考えていると自分の頬が濡れているのに気付いた
お前の暖かい手を握る
「ルフィっ・・・」
助かってくれてよかった
だけどお前の笑顔が、明るい笑い声が無いとやっぱり淋しすぎる
震える声を振り絞りながら呟いた
「ルフィ、早く、起きやがれ・・・っ」
明日になれば必ず目を覚ますと、自分に言い聞かせ病院を後にした
ひどい虚無感を感じたまま、俺はタクシーから降りた
いつも通る道
いつも帰ってくる家
何も変わらない風景
ただ変わったのは、お前がいないことだけ
「にゃあっ!!」
ふと、後ろから猫の鳴き声が聞こえた
猫らしからぬ明るい声色にお前に呼ばれたかと錯覚してしまった
振り返ると俺達の飼っていた黒猫がよたよたと走り寄ってくる
最初は怪我してるのではないかと思ったが、俺の足元に来る頃には普段通りで、生きていたとほっとする
「にゃあ、にゃあ」
お前を置き去りにした俺をまだ必要としてくれてるのかと猫の視線に合わせるようにしゃがみこんだ
金色の瞳が俺を見つめる
どうしても一人の男と重ね合わせてしまう自分がいた
「クロ・・・どうしたらいい・・・っ」
枯れたと思っていたのに、俺の目からは絶えず涙が流れ続けた
「ルフィが・・・ルフィが、意識不明に・・・っ」
今だけは弱い自分でいさせてくれ
明日にはちゃんとお前の好きな笑顔で迎えるから
抱き上げて猫の身体に顔を埋める
猫がとても悲しく、鳴いた気がした