dear
□不器用な恋
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魔狼(ライカンスロープ)の呪い、元・魔王である昴の右手のこと…。
それらが劇的に終了して約半年。
プリノは魔王軍将軍から魔王になっていた。
それと同時に自分の部下、今では側近となっている紅とは晴れて恋人同士という関係になっていた。
きっかけは何だったのか?と聞かれても、正直プリノ自身にもよくわからない。ただ一緒に過ごしていた時間はプリノにとってかけがえなきものであり、これからも一緒にいたいと純粋に思っていた。
そしてその想いを紅に告げ見事、恋人同士となって幸せいっぱいのハズだったが、現実はそうもいかないものである。
その原因は仕事が忙しいというのもあるが、それ以上に…
「紅さん、今日も素敵です!」
「今日、お仕事終わってからお時間ありますか?」
「今度、良かったら一緒に映画に行ってもらえませんか?」
などの紅に対する異常な程のモテ具合だった。
目つきがキツく赤い髪がそれを引き立てていて、見た感じは取っつきにくそうなイメージであったが、プリノが魔王になってから…、厳密に言えばプリノと付き合い始めてから少し穏やかな印象を与えるようになり、女性人気が一気に上がったのだ。
無論プリノの人気も相変わらずであったが、そこら辺はキャロルがうまく手を回してくれたりで、デートに誘われたりなどということはなくなっていた。
こっちの大陸に戻って仕事に復帰すれば、共にいる時間は減ることは充分わかっていたつもりでいた。
だがプリノはこんなことになるとは、思っていなかった。
「…私、紅と付き合い初めてからどんどん欲張りになってます…。」
「え?」
「もっと一緒に居たい、とかもっと一緒に話したい、とか他の女の子と一緒に居てほしくないとか…。ダメですよね、私…。」
「プリノさんはもっと紅さんに甘えていいと思いますよ?いろいろ我慢しすぎです。さっき言ってたことも全然、欲張りなんかじゃないですよ。相手のことを好きだと思うんなら、持って当たり前の感情です。」
「持って当たり前の感情…。」
「そうです。じゃあ紅さんが戻ってきたらボクが何とかして時間作らせるんで…って、プリノさん?本当に大丈夫ですか?」
「え…?」
その瞬間、プリノは倒れてしまった。
原因はここ最近の疲労からきた風邪であった。
プリノが目を覚ますとそこは、自分の部屋であった。
「私の部屋…?キャロルが運んでくれたのかしら?」
そのとき、ふっと心配そうに尋ねてくる声が聞こえた。
「大丈夫か?」
その声はキャロルではなく、プリノがずっと待ち焦がれていた大切な人…。
「く、紅!?どうしてここに…!?」
「俺が執務室に戻ったらお前が倒れててな…、熱があったみたいだからとりあえず、お前の部屋まで運んできたんだ。」
「そ、そうですか…、ありがとうございます。」
プリノはキャロルに言われたことを思い出していたが熱のせいか、うまく言い出せないでいた。何か言わなきゃと考えていたプリノより先に紅が話し始めた。
「…悪かったな…、ここ最近まともに話せなくて…。」
「え…?」
「キャロルに聞いた…、お前が俺のことで悩んでるって…。あ、これだけは言っておくが、あの女達と俺さ一切関係ないからな!?なんか勝手に近寄ってきて、話しかけてくるだけで…。」
プリノは必死に弁明している紅を見て、思わず笑ってしまった。そして紅の手をそっと握った。
「大丈夫です…。紅のこと、信じてますから。」
なんとも不思議な感覚であった。会えないときは不安が募るだけだったのに、会えただけで心がとても暖かくなる。
「…俺も信じてる、お前のこと…。」
紅は少し照れながら、プリノの手を握り返した。
「紅…、少し目を瞑ってて下さい。」
「え…!?」
紅が問おうとした瞬間、プリノは紅の頬に口付けをした。
あまりの突然さに紅は硬直して、プリノは恥ずかしさで余計に熱が上がったのか、すぐに寝てしまった。