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□運命 〜この桜の下で〜
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はらりと舞う桜の花びら…。後宮にあるたくさんの桜の木の中、秀麗はただ一本の桜の木の前に居た。
暫くの間、物思いに耽っていると秀麗を呼ぶ声がした。
「秀麗、ここにいたのか。」
その人物はこの彩雲国の王、紫劉輝であった。
「劉輝、どうしたの?」
「どうしたの?じゃ、ないだろう。いきなり居なくなるから驚いて、捜していたんだ。頼むからあまり一人で彷徨かないでくれ、もう秀麗一人の体ではないんだぞ…?」
そう、秀麗の体には新しい命が宿っていた。
子を宿せないとわかっていながらも、この二人は奇跡を起こした。
「大丈夫よ、ちょっと気分転換に歩いていただけだから。…そしたらね、急にこの場所に来たくなったの。この場所は私と劉輝の思い出の場所だから…。」
一本の桜の木。この桜の下で秀麗と劉輝は出会った。
あの頃は仮の妻であり王の教育係として後宮入りをしていたが、今では共に愛し合い秀麗は劉輝の後宮に入った。
「早いな、年月が経つのは…。」
「本当ね…。そういえば劉輝に真面目に求婚されたのも、この桜の木の下だったわね。」
「なっ…、余はいつでも真面目だったぞ!?」
「あら、藁人形を贈りつけてくる人のどこが真面目なのかしら?」
「あ、あれは、愛の藁人形であって、決して悪気があったわけじゃ…!」
「冗談よ、素直に嬉しかったわ。」
そう、秀麗が後宮を辞した後も劉輝は秀麗に文や贈り物をしていた。
…大半が微妙にズレていたが。
そして長年の苦労が遂に報われ、秀麗と劉輝は結婚することになった。
「本当に今まで色々あったけど、いつでもどんなときでも、始まりはこの桜だったわね…。」
「この桜は運命の木なのかもしれないな…。」
「運命?」
「あぁ、余と秀麗が出会うこと…、それを導いてくれた、運命の桜だ。」
「ふふ、そうかもしれないわね。」
そのとき、柔らかな風が吹いた。
その風に煽られ舞う桜の花びら…、その空間はとても幻想的であった。
劉輝はその瞬間、秀麗に口付けた。
「りゅ、劉輝!いきなり何するのよ!?」
「今のはおまじないだ。…余と秀麗の子が無事に産まれてくるようにと。」
「劉輝…。大丈夫よ、私たちの子供だもの。…一年後が楽しみね。私たちの子供に、この満開の桜を見せて教えてあげたいわ。…ここが私たちの始まりの場所だって…。」
一年後…、その場所には幸せそうに微笑む、一組の家族がいた。