短編
□金はなくても愛はある
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「こんにちはー。グレイル傭兵団の者ですー」
小さな家屋の中からどうぞ、と聞こえて中へ入った。
「こんにちは、おばあちゃん」
「わざわざ、悪いねえ。何せこの腰では…」
「いいのいいの」
老婆に勧められ、椅子に腰掛ける。
「おばあちゃん、これは?」
「ああ、マドレーヌの材料じゃよ。孫のために用意したんじゃが、料理は嫌いじゃ言うもんだから…」
「へえ…。もったいないね」
目尻を下げる老婆が、可哀相になった。しかし、老婆はふと何か思いついたように顔を上げた。
「貴女、作る?」
「えっ?」
「そう、それが良い。傭兵団の皆様にも持ってってやりなさいな」
「でも、私お菓子作ったこと…」
「教えてあげるから。ほら、そこにエプロンがある。手も洗いなさい」
なんだかんだ老婆に押され、結局マドレーヌを四苦八苦して作り上げた。
それでも出来上がると感動して、甘い香りに笑顔がこぼれる。
老婆にたくさん礼を言ってマドレーヌを手に砦へ帰った。
「ただいま。あ、セネリオ!」
「老婆のところにはちゃんと行けましたか」
「うん!ほら、マドレーヌを一緒に作ったの。皆で食べよう!」
「……で?」
「え?」
「依頼料。もらってきましたよね?」
当然ですよね。じゃなきゃ何しに行ったんですかって話ですよね。まさか遊びに行っただけじゃないですよね。仕事してきたんですよね。
セネリオはそんなこと口には出してないけど、何ていうんだろう。オーラ、かな。オーラが出てる。女神みたいに?否、女神もびっくりだ、これは。
セネリオが無表情なのはいつものことだし、今も無表情だけど。
目が。
これは、きっとセネリオのスキルだ。
女神戦の前の、負ける気がしないっていうアイクの言葉の裏には、最強(恐?)スキルつきの参謀様がいたのか。あの自信の源が分かった。
そして改めて思う。私は何て素晴らしい師を持ったのだろう。誰かさんの師匠の、赤髪で馬の尻尾ヘアに言いたい。
まばたき出来ない。
そんなことがほんの刹那に頭をかけめぐり、同時に対応策を考える。
夢の師弟対決か。
やがてセネリオの口が開いた。
やばい、奥義が。
勝てる気がしない。
いや、アイクを見習おう。
勝つ。
「さあ、報酬を渡してください」
すっ、と冷たく無慈悲に差し出された手。
痛い痛い痛い。目が、手が。早く寄越せ、と。私が持っていないと分かっていながら、早く寄越せ、と。
しかし私は最後の切り札、ど根性のスキルを使って奥義を繰り出す。
爽やかな笑顔とマドレーヌ。
そして渾身の一撃。
金はないけど愛はある
でもセネリオは連続のスキルをつけていた。
.
何も言えません。
でもきっとセネリオはマドレーヌは食べてくれます。なんだかんだ弟子は可愛いはずです。
セネリオはいつも通り、ヒロインが…。ごめんね。
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