アイロニーサンサーラ

□廃墟の残骸
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「大丈夫、大丈夫だ。もう直ぐ街に着くから・・・!」
「このままでは・・・お前も、危ないだろう・・・」
「馬鹿言うな、俺を誰だと思ってんだよ。いいから、気をしっかり持て。」


不安を振り切るように、わざと大きな声を出した。
最早相手を励ましているのか自分を励ましているのか分からない。
こんな時にあいつらが居れば・・・と思う。
唯一、自分と対等に戦えた仲間たち。彼らは無事なのだろうか。
考えをめぐらせていると、背中の体温が失われていくのに気づいてしまった。
途端、猛烈な不安と焦りが銀時の中を駆けた。
痛む足を無理やり動かし、走り出す。
後ろから声がするが、そんなことに構ってはいられなかった。
やがて、肩を掴む手に力が無くなる。


「頑張れ・・・頼む、頑張ってくれ!」
「銀、時・・・」
「死ぬな・・・死ぬんじゃねぇ・・・・・・!!」
「止、ま・・・・・・」


背中からの声にはっとして足を止める。
彼の最期を悟った。悟ってしまった。
銀時は叫びだしそうになるのをぐっと押さえ、その場に仲間を横たえる。


「俺は・・・先に行く、が、お前、は・・・ゆっくり、来いよ」


苦しそうに告げられた言葉に声が出ず、手を握り頷く。
ほっと安心したように細められた瞳に、鼻の奥がつんとした。


「お前は・・・生きて・・・」


その言葉を最期に、彼の目が光を失った。
体温の無くなった手をぎゅっと握り締めながら歯を食いしばる。
不思議と涙は出てこなかった。
残ったのは、叫びだしそうな衝動と、唐突に襲い掛かってきた不安と孤独。


一体、この戦いで何が残ったというのか。

何を得られたというのか。


残ったのはべっとりとこびり付いた血の臭い。
造られたのは、辺り一面に広がる死体の山。
手に入れたのは穢れた両手と空虚な想い。

「何が、輝かしい未来だ」

残ったのは、ぐちゃぐちゃとかき混ぜられた糞みたいな世界だけではないか。
握り締めた掌から血が流れた。
銀時は黙って立ち上がると、何も言わずにその場を後にした。
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