Gift&リク
□20000hit記念企画
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#真後ろの強さ(Takasugi×Gintoki)
――ハァッ
血の混ざったような息を吐く。
大した温度を持っていないはずのそれでも空気を白く染めるのだから、どうやら辺りは随分と冷え切っているらしい。
かじかんで上手く動かない指先に息を吹きかけると、切れた口内に鉄の味が広がった。
ポタポタと腕から垂れ落ちる血を無理やり振り払うと真っ直ぐと前を見据える。
「また一人、か」
感情の入らない声で呟く。
見回した所、生きている人間はこの辺りでは自分一人だけらしい。
無惨にも打ち捨てられた死体の山が嫌でも視界に入り、チッと小さく舌打ちを打った。
踏み出す度に舞う砂埃りに瞳を細めると、地面に転がった石に足を取られて倒れ込む。
その場で立ち上がるのも何だか馬鹿らしく、そのまま仰向けに寝転がると砂埃の間からぼんやり空が見えた。
「終わった、のか」
今にも降り出しそうな曇り空に何故だかえらく安心して。
この場には似つかわないだろう乾いた笑みを浮かべていると、何やら聞き慣れた足音が頭上へ迫ってくるのが分かった。
「おい、死んでるか」
「何その質問。生きてるっつーの」
軽口を叩きながら上半身を起こす。
視線の先には見知った顔がにやりと不敵な笑みを浮べていた。
「よぉ高杉、てめぇも生きてたのか」
「まぁな」
ふぅ、とため息をつくと釣られたのか高杉も小さく嘆息する。
視線の置き場に困って高杉を眺めれば返り血なのか彼自身のものなのか分からない血が服にこびり付いていて、それが酷く鮮明に頭に残った。
眼に残る紅にやはり彼も自分と同じ戦場に居る人間なのだと再確認し、また不可思議な笑いがこみ上げてくる。
暫くの間その乾いた笑みを貼り付けたままの銀時を眺めていた高杉だったが、やがて白い息を吐き出すと共に銀時の後ろ側にゆっくりと腰を下ろした。
ピッタリとつけられた背中に驚いて銀時が振り返るが、後ろを向いたままの表情を窺うことは出来ずに首を傾げる。
荒れた戦場跡地を流れる不思議な空気に押し黙っていると、突如その沈黙を高杉が破った。
「お前は、」
途切れた言葉は意味を成さず、ただ風の中に溶けていく。
続きを紡ぐにも良い言葉が見つからないのか、彼にしては珍しく迷っているような間が空いた。
やがて思考に決着がついたのか、苦笑を浮かべながら、
「相変わらず、弱っちぃなぁ、銀時」
からかうような言葉とは裏腹に、その声音は悲しみを帯びていて。
どう反応していいのか分からず俯くと、背後で高杉が立ち上がるのが分かった。
「こんな所で油売ってんじゃねぇよ、帰るぞ」
そう言って差し出された手に目を白黒させていると、それが可笑しかったのか高杉が喉を鳴らして笑う。
「てめぇが弱いのは昔から知ってる。だから、勘違いするんじゃねぇよ」
自分は強いのだと。
そう思うこと自体は悪くはない。隊の士気も上がるし、何より敵に対する恐れがなくなる。むしろ良いことだとも言えるだろう。
だが、そう思うが故に全てを背負いこむのはいただけない。
「お前は強くねぇんだからよ」
だから、お前は弱くあればいい。
昔から自分を後に回すようなお前は、そのままの弱さを武器にしろ、と
少しだけ柔らかい声音のそれは、言外にそう言っているようで。
「まぁ弱小はお前だけどな」
思わず口をついて出た言葉に、知らず口元が自然と弧を描く。
差し出された手を掴み取ると、高杉がにやりと口端を持ち上げて笑った。
白い息が舞う
その弱さこそが
強さなのだと
俺は知ってる
2009/10/17
<攘夷高銀/シリアス>
海さまリクエストありがとうございました!
柊