Gift&リク

□20000hit記念企画
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#紅猟(坂銀)



「あそこの公園に夜6時な。遅れたら食費一年分よろしく」

昨日からこちらに滞在していると電話をかけると、ふーんという素っ気ない返事
と急な約束を取り付けられた。
まぁ元々銀時と過ごそうと夜は空けていたので、なんら慌てる必要は無かったけ
れど。

(食費なんて言われればいくらでも払ってやるのに…)

一年分。それも何かの罰で。

それだけで彼なりの不器用な優しさがチラリと顔をのぞかせているのが分かる。
いや、優しさというより遠慮か。
坂本はとっくに回線の切れた携帯をコートのポケットにしまうと早く時間になら
ないものかと顔を綻ばせた。




「おっそいのぅ〜」

時刻は約束のそれから既に長針が一回りしそうな所まで来ていた。
自分から誘ったくせにとふてくされる反面、彼に何かあったのではないかと気が
気でなかったりして…随分とまぁ過保護になってしまったものだと苦笑する。

「あ、いたいた」
「金時!」
「銀だっつってんだろ!!!!」

ゴツっと勢い良く殴られた頭を涙目でおさえると、目の前の男はバツが悪そうに
視線をさまよわせた。

「……悪ぃ、遅れた」
「あっはっは、気にしとらんよ」

嘘付け。
さっきまであーだこーだ考えていたくせに、彼が来ただけでどうでも良くなって
しまうなんて、自分でも都合が良いと笑ってしまう。
そんな坂本の心境を知ってか知らずか、銀時はホッとしたように息をもらすと小
さく笑みを浮かべた。

「銀〜ただいまぜよ〜」
「あ〜はいはい。…おかえり」

伸ばされた両腕に大人しくおさまると、自らの腕も坂本の背中へと回す。
坂本はその事に一瞬驚いたように目を瞬いたが、次の瞬間には満足そうにその肩
に顎を乗せた。

「…それで、今日はどうかしたがか?」
「へ?」
「外で会いたいなんて珍しい」

昔は良く隊を抜け出て待ち合わせなどしていたが、再開してからは恐らくこれが
始めてだ。
いつもは坂本から万事屋に足を運ぶか、銀時が空港まで迎えにいくかのどちらか
で、その他の場所などバッタリ会わない限り利用することは少ない。

「あーうん、まぁ」

不自然に言葉を濁す銀時に不満そうに眉を寄せるが、次の瞬間繋がれた手にそれ
は驚きへと変わった。

「ぎ、銀時?」
「まぁついて来いって」

ぐいぐいと引かれる腕はいつもなら逆の立場で、何処となく新鮮味を感じる。
人前を気にせずこうやって歩くのは普段の彼なら有り得ないことで、酒でもはい
っているのではないかと疑ってしまう程だ。
しかしながら先程抱きしめた彼の体からはアルコールの匂いなど微塵もしなかっ
たわけで。

「何、似合わない顔してんだよ」
「おお!?」

突然振り向いた銀時にグリグリと眉間を押され、思わず驚きの声をあげてしまう

どうやら皺が寄っていたらしい。
不満そうな銀時の表情に申し訳なると同時に、自分は普段どう思われているのか
疑問に思った。

「ほら、ここ」
「ほえ?」

ぱっと手を離される。
なんだなんだと顔を上げるとそこにはライトアップされた巨木が一本ポツンと佇
んでいた。
根元の方からミシミシと嫌な音を立てるそれは恐らく長くはもたないだろう。
むしろ、今こうして立っている事が奇跡に近い。
後ろから聞こえてきたご機嫌な笑い声に慌てて振り向けば、予想通りニヤニヤと
笑う銀時の姿。

「おんし、これが見せたかったんかえ」
「おー。もう見れなくなるかもしれねぇしなぁ」

どこか寂しげな響きに、この場所は彼にとって大切な場所だったのだろうと、そ
の理由を考えかけて止めた。
それよりも今は目の前でふてくされている子供のような男とこの風景に集中しよ
う。
改めて視線を彷徨わせれば目の前に広がる薄いピンクに知らず息を飲む。
ゆっくりとまばたきを繰り返していると、やがて隣で同じく満足そうに眺めてい
た銀時が口を開いた。

「この辺りの桜にしては遅咲きだろ。ここの桜は毎年そうなんだ」

昔はこんなライトアップもなくて穴場だったのに…と口を尖らせる銀時に思わず
口元が緩む。
「こりゃあ感謝せんとなぁ」
「何に?桜に?」

珍しくきょとんとあどけない表情を見せた銀時に、ああまただと瞳を緩める。

「…ほうじゃな」
「穴場だったろ?ここの桜が一番だわやっぱ」
「それもそうじゃが…」

すっと伸びた右腕がふわりと揺れる銀髪を絡め取る。
赤い瞳が坂本を映すとほんの少しだけ優しく歪んだ。

「んだよ」
「おんしがここに居てくれることの方が感謝ちや」
「何言って…」

右腕でぐいっと引き寄せると、その唇が続きを口ずさむ前に奪い取る。
空いた片手を腰に回してがっちりと固定させると息苦しそうな声とは裏腹に首に
腕が回された。
にやりと口元を緩めながら顔を覗き込むように角度を変えれば、ふっと甘く息が
もれる。

「…ふ、ぅ……んんっ…!!」
「…銀時…」

苦しいとばかりに胸が叩かれ、名残惜しそうに唇が離れる。つうっと余韻のよう
に残った銀糸に銀時が顔を真っ赤に染めた。

「っ…て、めっ…こんな所で…!!」
「あっはっは!!」
「誰か来たらどうすんだよ!!」
「やき、穴場に連れて来たんじゃなかか?」
「は…っちょ、辰…っ」
「まぁわしはおんしが居さえすれば穴場だろうと人気スポットだろうと構わんが
のう」

言いながら坂本の手が銀時の首筋から胸にかけてをスルスルと移動していく。
ダラダラと冷や汗を流す銀時ににっこりと笑うと、耳元に唇をよせて

「遅刻した分、長い花見が出来そうじゃのう」

囁きと共に意地悪く笑った。





紅の花が咲く場所は
君が居れば
きっと何処にだって










2010/6/7


<坂銀/デート>
ぽんすけさまリクエストありがとうございました!


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