短編集

□短編集1
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#モノクロ鎮魂華(Gintoki+Sakamoto)


江戸の有名な花火師が亡くなったらしい。

実際に面識は無かったが、それでも毎年のあの立派な花火がもう見れなくなるかと思うと少しばかり衝撃を受けた。
他の花火とは違い、空を照らすように勢いのいいその花火はやはり人々に大きな感動を与えたのだろう。
そういえばこの江戸の町がここ数年で様変わりした中、あの花火だけは昔から変わらず空に咲いていたなぁと、こんなことを考える辺りらしくもなく感傷的になっているようだ。
ふと、時計を見る。
聞いた所によると、昨日のうちに葬式は終わり、今日は通夜が行われるらしい。

ふぅ。

小さく息を吐くと、銀時はヘルメット片手に立ち上がった。



***



ぶらりと気まぐれにやってきた通夜の会場は、予想以上に多くの人々で溢れかえっていた。
しばらくの間どうしようかと突っ立っていると、

「銀、銀時!」

聞き慣れた声がしてピクリと顔を上げる。
声を辿って辺りを見渡すが姿を発見することは出来ず、

「ここじゃここじゃ」

と肩を叩かれてようやく気づいた。

「辰馬…お前も来たのか」
「おお」

言いながらにこりと笑う坂本は流石にあの赤いコートを脱いでいる。

「おんしも見送りに来たんかえ?」
「まぁ…そんなとこか」

暇だったし、と続けると素直じゃないのぅなどと茶化される。
言い返そうと隣を振り向くと、坂本は何処か遠くを懐かしむように眺めていて、開けた口を仕方なく閉じた。

「あの花火はまっこと見事なもんじゃったのう!皆が皆、戦忘れて見上げちょったき」
「そうだな」
「それが見れなくなるんは、ちっくと寂しい気もするのう…」

確かに戦時中のそれは銀時達に大きな感動とささやかな励ましをくれた。
戦に参加した年から既に打ち上げられていたそれはいつからなのかと仲間に聞いてみたこともあるが、やはり皆首を捻るだけで随分と前から打ち上げられていたのだろうという事実しか知ることは出来なかった。

「つってもお前地球居ねぇから見れねーだろうが」
「それはそうなんじゃが…」

うーんと考えるように唸る坂本を横目に見た後に空を見上げる。

「わしが居なくとも変わらずここを照らしてくれちょる思ってたきに、やっぱり寂しいぜよ」
「そうだな…」

常に地球に居るわけではない坂本にとって、変わってしまった江戸の町で唯一変わらないものだったのだ。やはり、思うことは大きいのだろう。

「でも、今日は別れの言葉を言いに来たんじゃないだろ?」
「あっはっは、そうじゃな!」

銀時の言葉にいつもの如く笑い声を上げる。
通夜には似合わないそれに人々が疎らに振り返るのがどこか可笑しい。

「まっこと救われちょったきに、礼ば言うぜよ」

呟きと共に、通夜の会場に花火と驚きからの歓声があがった。




言わない言葉の裏っ側
ありがとう、ありがとう
また会うその時は
どうかお元気で



END


2009/10/28 某受付のNさんに密かに捧げます
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