企画もの
□坂坂
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初めて会ったのは戦場でもなんでもない。
ただブラリと立ち寄った団子屋だった。
女や夫婦に混じって一人、団子を食っていた彼はやたら幸せそうに目尻を緩めていたのを覚えている。
「それ」
目の前の銀髪に惹かれじっと見つめていた所、それに気づいた男が坂本の手の中の団子を指差した。
「食わないならくれよ」
ケロリとした表情で言ってのけるとじっと見上げてくる。
別に食べない分けではないのだが、と苦笑しつつも串を差し出すと、男の瞳が一層輝いた気がして面白い奴だと笑った。
「え、マジでくれんの」
「おんしが言ったんじゃろー」
「やりー!兄ちゃん太っ腹だな!」
まぁ座れよ
言いながら自らの隣をバシバシ叩く男に自然口元が緩む。
それじゃあと座った所で男が自らの分を食べ終え、坂本の団子へと突入した。
「男のくせに甘いもんが好きっちゅうんは珍しいのう」
「悪かったな甘党で」
「誰も悪いちゃー言っとらんぜよ」
「あっそ」
最後の一本を残して男が茶に手を伸ばす。
「つかお前だって団子屋来てんじゃん。甘党なんじゃないの?」
「まぁ団子は好きじゃが…わしのはちくとした気分転換みたいなもんじゃきに」
「ふーん」
自分から話し始めたというのに、まるで興味がなさそうに相づちを打つと茶を置き団子を口に運んだ。
その流れるような一連の動きをぼーっと見ていると、やがて団子を完食した男がふうっと息をついた後坂本を振り返り口を開く。
「ごっそさん、気のいい兄ちゃん」
そう言って向けられた柔らかい笑顔を忘れることは出来なかった。
二人が同じ戦地を駆けるようになるのは、これより少し後の話。
「辰馬ー団子食いに行くぞー」
「おお、行く行く!ちくと待っとーせー!」
2009/10/29