企画もの

□坂坂
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曖昧な言葉は昔から好かないと
何処か他人事のように思う節があった。
それ自体は自覚していたし、別段気にも止めてはいなかったのだが。
理由は全て自分だということの理解はどうやら出来ていなかったらしい。





広々とした青空にうんと伸びをすると、向かい来る風に目を細める。
秋の風というのは不思議なもので、暖かいと思ったら今度は冷たい風が吹く。
からかうような、それでいて掴み所の無いそれらが何処となく銀時は好きだった。
一頻り風を感じた後、その場にしゃがみこむ。
芝生以外に何もないその空間は心地よく、しまいにはその場に寝転んだ。

「遠いなぁ」

空が遠い。
誰にいうでもなく、誰のことをいうでもなく。
ポツリと呟いた言葉はふわふわと秋風に揺られた後、

「まっことじゃ」

思いもよらぬ人物に拾われた。

「久しいのう金時!こがなところで何しちゅー」
「見てわかんねぇか?日向ぼっこしてんの。つか銀時だからね社長さん」

顔も視線も動かさぬまま。
ポツリと呟いた言葉に坂本がおっと小さく声をあげた。
それでも我知らずとばかりにぼんやり空を見上げていると、隣に腰掛ける気配がした。

「じゃが、まっこと偶然ちや。仕事相手さんとここで別れんかったら会えんかったきに」
「へぇ」
「…のう銀時、何ぞあっただかえ?」

今日のおんしゃいつもと違って元気がのう見えるぜよ
眉尻を下げながらそう呟く坂本に、銀時はやっと視線をそちらに移す。

「何もねぇよ」

何もない
だからこそこんなにも空虚な気持ちになっているのだろうか。

「…ほうか」
「?何だよ」
「いや、いい」

やけに合点のいったような顔で頷く坂本に今度は銀時が尋ねると、困ったような顔をしてこちらを見下ろした。
「何だよ気持ち悪ぃ。良いから言っちまえよ」
「なら言うが、…おんしは、もうちっくと自分自身を許すべきじゃと思うてな」

坂本の言葉に真髄を貫かれた気がして目を見開く。勢いよく上体を起こせば瞳に移る坂本の表情は珍しく真剣そのもので、何となくいたたまれなくなって視線を外した。

「おんしゃ昔曖昧な事が嫌いっちゅうてたのう。じゃがそれは曖昧なのが嫌いなんじゃのうて、曖昧な自分自身が嫌いなんじゃなかか?」
「俺は…」

「おんしは、自分で自分を嫌っちゅうんぜよ」

何かが繋がる音がした。
自分でも原因不明の妙な嫌悪感。その理由が自分自身だったとは。
塞がらない口を手で覆って視線を地面に落とす。
坂本はそれを少し困ったように見た後、ふいに先程とは違う優しい声音で言葉を紡いだ。

「おんしゃ自分を誤魔化しすぎちや…たまには素直に吐き出してみろ」

せめて自分の前だけでも

そうとは続けずに笑うと、少し驚いたような顔をした銀時がやがて仕方ないとばかりに表情を崩した。

「お前が泣きそうになるくらい色々ぶつけてやるからな。後悔しても知らねぇぞ」

呟いたその表情はいつも通りの不敵な笑みで、

「臨むとこちや」

思わず、返す言葉に力が入った。




遠い、蒼空

空のように
広い心をあなたに






2009/11/10
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