Gift&リク

□20000hit記念企画
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#温もりの在り方(万事屋)




秋も半ば、歌舞伎町はしっとりとした空気に包まれながらも秋色に染まっている。
夏から一気に気温が下がるこの季節は体調管理が難しい。肌寒さを感じ始めるこの時期が一番おでんが売れるというのも納得がいくものだ。
しかしながら体調管理一つ怠ることが命取りになるのもこの時期。

「ぶえっくしっ!」

枕元でしんみりそんなことを考えていたら、盛大なくしゃみの音と共に鼻水をすする音がした。
因みにこれは先程から一定の間隔で繰り返されている。

「大丈夫ですか銀さん」
「これが大丈夫に見えるかー…?寒気は止まんねぇわ咳もくしゃみも出っぱなしだわ寝っぱなしだと気が滅入るわで最悪なんですけど」
「熱があるんですから当然ですよ、我慢して下さい」

ボヤく銀時に眉尻を下げると額の濡れタオルを冷たいものに取り替えてやる。
案の定季節の変わり目が張った罠に見事掛かった銀時は、先日から高熱と咳で床に伏せって居た。
本人的には病気の時ほど動き回りたいらしいのだが、新八の有無を言わさぬ反対により早々に却下された。
大体、普段動かないのに病気の時はって…それならば普段から働いてもらいたいものだ。
そこでふと思い立ち、ちらりと時計を見るともうすぐ短針と長針が重なる頃。
もうそんな時間か、と小さく溜め息を吐いた。

「あー尻と背中と腰が痛ぇー…」
「はいはい我慢して下さいねー」
「何だその言い方、新八のくせに生意気な」
「あーもう、当たらないで下さいよっ!つかくせにってなんだよくせにって」

言いながら水桶を持ってヨイショと立ち上がった。
視線だけでそれを追ってきた銀時に「お粥作ってきますからちゃんと寝てて下さいね」と念をおし、体に響かないようゆっくりと襖を開けて出て行く。
そのまま洗面所に水桶を置いて台所に向かうと、見慣れたチャイナ服がひょっこり現れた。

「新八ぃ、お粥ってどう作るアルか〜?」

先程から何やら静かだと思ったらどうやらお粥作りに挑戦していたらしい。
おたま片手に小首を傾げる神楽に思わず笑みが込み上げて、やんわりと瞳を細めると「そうだなぁ」と口元に指を当てた。

「準備してくれてるみたいだし、お粥の方は僕がやるから神楽ちゃんはゆっくりしてていいよ」
「嫌アル」
「えっ」

新八の言葉に間髪容れずに答えると、ぷっくりと頬を膨らませる。
驚いて目を瞬く新八をチラリと見ると、バツが悪そうに唇を尖らせた。

「私も銀ちゃんの看病したいもん…私が風邪の時は銀ちゃんがお粥作ってくれたネ。今度は私の番ヨ」

そういって俯いた神楽の表情はどこか不安気だ。
思えば軽い風邪を引くことはあったが、高熱を出して数日寝込むなんてことは今までなかったような気がする。
ここの家主は見た目通り逞しいのだ。
だから、余計に不安に感じてしまうのかもしれない。
新八は俯く神楽の頭をポンポンと叩くと、にっこり笑った。

「じゃあ一緒に作ろうか」

作り方も知らない神楽にやらせたら大変なことになるのは目に見えていたし、新八だって銀時のことを労りたい気持ちは神楽と同じだ。
だからこれが今一番に出来る妥協案。

「うん!」

新八の言葉に嬉しそうに頷く神楽に、新八もつられるように微笑んだ。



一方銀時は先程から止まらない寒気に布団にくるまることで何とか耐えていたが、それでも湧き上がるそれに不機嫌そうに眉を寄せた。

「あ〜…なんなんだよったく」

この風邪の原因はわかっている。一昨日引き受けた呼び込みの仕事がいけなかったのだ。
飲み屋の仕事だったので、遅くまでかかる上外に立ちっぱなしだったのがいけなかった。
案の定冷え切った体は、次の日反抗とばかりに熱を出し、今に至る。

「ぅっくしゅ!…しんどい」

ぽつりと呟いた一言が静かな部屋の中に弱々しく響く。
体力的にもしんどいのだが、何よりじっと同じ所に寝ているということが銀時にとっては苦痛だった。
何もやることがなく、かといって眠ることも出来ず。
只々ぼおっと過ごすしかない時間は、遠く過ぎ去った歴戦の日々を思い出してしまいそうで。

「…」

滅入る気持ちを何とか持ち上げようと上体を起こすと同時に、襖がそうっと開けられた。

「あれ、銀ちゃん起きてるアル」
「もしかして起こしちゃいましたか?」

襖からひょっこりと首だけを出して不安気に尋ねる子供たちに「いや、」と中途半端に返事をすると、たちまちその表情がほっとした時のそれになった。
いそいそとした様子で中に入るなり、枕元にストンと座り込む。

「具合、どうですか?」
「ちっと良くなったけど、まだ寒気がなー…眠れりゃいいんだろうが中々寝付けねぇし…ッゴホッゲホッ」
「咳、悪くなってきましたね…」

いいながら銀時の額に手を当てると眉を寄せる。
それを少々照れくさく感じながらも大人しくしている銀時に、神楽がずいっと顔を近づけた。

「銀ちゃん!私お粥作ったアル!」
「お前が?」
「そうヨ!」

得意そうな顔にチラリと新八を見ると、にっこりと微笑まれた。どうやら彼の指導下らしい。

「…そっか。ありがとうな」

よしよしと頭を撫でる銀時に嬉しそうな笑顔を見せると、小鍋に入ったそれを茶碗によそってくれた。

「ネギと卵のなんですけど…食べれそうですか?」
「おお、悪ぃな」

礼をいいながら茶碗に手をのばしたところ、

――パシッ

神楽の手にそれを阻まれた。
訝し気に見上げると、神楽が無邪気な笑みを浮かべてこちらを見ている。

「銀ちゃん私食べさせたげる!はい、あーん」
「…おい、何させっ」
「あーん」
「………あーん」

仕方なく口を開くと、外気で程良い温度になったお粥が口の中に流れ込んできた。
その暖かさに何故だか込み上げるものを感じて、

「どう?美味しいアルか?」
「早く元気になって下さいね」

二人の言葉に声もなく只々頷くことしか出来なかった。




手負いの時の特効薬
(お前らのおかげで
寒気が消えたよ)





2009/11/9


<万事屋/風邪引き銀さん>
リクエストありがとうございました!


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