「準備はOKアルか?」
「うん、完璧!!」


子ども達はカレンダーを確認すると、ひっそりと笑いあった。






#赤の花言葉(万事屋+坂銀)




「おい神楽、そろそろ定春の散歩行けよてめぇ。…神楽ー?」
「神楽ちゃんならさっき散歩に出掛けましたよ」
「あ、そうなの?」


振り向くと確かにいつもの場所に定春がいない。
神楽が自分から散歩に出かけるなんて珍しいこともあるもんだ。
感心感心と再びテレビに向き直ると、新八にタイミング良く茶を渡される。


「はい、どうぞ銀さん」
「お、おう。サンキュ」


礼を言えばいえ、と微笑んで再び台所へと消えていった。
冷蔵庫を開ける新八を見て、ふと買い物をしていないことに気がつく。


「やべ…わりぃ新八、買い物行ってねぇわ」
「ああ、大丈夫です。僕行っときましたから」
「え?…お、おう」


今日は僕がご飯作りますね
にこやかな圧力に押され、しどろもどろになりながらも頷く。
新八はそれを確認すると、冷蔵庫から野菜をいくつか取り出した。


何かおかしい


いや、別にいいのだけれど。やってることはとてもいいことなんだけれども。
だが何処か…今日の子ども達は不自然だ。


(何かあったか…?)


ポリポリと頭を掻きながら考えるが、特に思い当たることはない。
ふむ、と唸ると玄関から賑やかな足音が聞こえてきた。


「ただいまアルー」
「おう、おかえりー」


やけに上機嫌な神楽が帰ってきた。
横目でそれを確認すると、気が付いた神楽がこちらを見てにっこりと笑う。


「な、なんだよ」
「銀ちゃん何かしてもらいたいこととかないアルか?」
「別に…ねぇけど」
「ふーん」


何だ、と詰まらなそうに呟いてから台所を覗き込む。
中に新八の姿を確認したのか、そのまま奥へと進んで行った。


(何なんだよ、たく)


何処か置いてけぼりを喰ったような気分でソファに座っていると、何やら階段を上がってくる音が聞こえて来た。
夕方に用事だなんと誰なんだろうかと考えていると、ガラガラと無遠慮に玄関が開く音が響く。


「お邪魔するぜよ〜」

「辰馬!?」


驚いてソファーから飛び起きると、丁度よく坂本がリビングへと足を踏み入れた所だった。


「な、どうして此処に!?連絡したか?」
「いんや」
「じゃあ何で…」

「なんじゃ、おんし気づいとらんかえ」

「は?」


意味が分からないとばかりに声を漏らせば、バサリと目の前に花が差し出される。
どうやらカーネイションらしきそれが目に移り、その赤や桃色に銀時が目を瞬かせていると、目の前の男がふわりと口元を緩めた。


「今日は母の日ぜよ」

「母の日…?」


ふとカレンダーを見ると、今日の日付の部分が赤く染まっている。しかもしっかり第二日曜日だ。


「……え、俺お母さん?」
「わしお父さんじゃし、お母さんはおんしじゃろ」


当然のように言ってのける坂本の頭に拳を振り下ろすと、反動で落ち掛けた花束を慌ててキャッチする。
ふわりと鼻をくすぐる香りに目を細めると、台所から子ども達がパタパタと駆け出てきた。


「おお!もじゃもじゃ帰って来たアルか!!」
「ちっくと予定よりか遅れたがのぅ」
「これくらいなら大丈夫ですよ。むしろ丁度いいくらいです」
「ほがか!!そりゃあ良かった!!」


自分を差し置き進んで行く話に着いて行けずポカンとしていると、いつの間にか復活した坂本が振り返って手招きした。
大人しく近づくと、ストンとテーブルの前に座らされる。
やがて新八が台所の向こうから何やら大きなものを抱えてきた。


「はい、銀さん!市販のより少し見た目は劣るかもだけど…」


言われ、目の前に置かれたケーキに目を丸くする。
プレートにはご丁寧に『お母さんありがとう』と書かれていて、やっぱり自分が母親役なのかと苦笑する。


「銀ちゃんいつもありがとうネ!!感謝の気持ちヨ!!」


そう言って神楽から渡された紙には手書きで『神楽の万事屋券』と書いてある。何でも券みたいなものなのだろう。
それで何でもやったるヨ!と得意気に話す神楽を見て、何となくじんわりと胸が熱くなった。


「ほいたら次はわしじゃのう」


さっき貰った花束だけではなかったのか。
ニコニコしながら近づいてくる坂本をキョトンと見つめる。
そしてそのまま――



――ちゅっ



「…は!?おま、何して…何してんのぉぉおおお!?!?!?」
「ただいまのちゅー」
「何当然見たいな顔してんの?居るから人!!子供たちもろ見てたから!!!!」

真っ赤になって離れようとするが、がっちりホールドされていて適わない。
押し返そうと試みようにも花束が邪魔して上手くいかず、あわあわと暴れていると神楽が溜め息混じりに呟く。


「銀ちゃん別にあたしたち大丈夫よ。もじゃ同士乳くり合うがいいね」
「ちょ、神楽ちゃん!?どこでそんな言葉覚えてきたの!!つーか乳くり合わねぇから!!」
「えー」
「えーじゃねぇよこのもじゃぁああああ!!!!!!」
「ああもう、二人とも落ち着いて下さいよ」


言葉とは裏腹に楽しそうに新八が間に入る。
それをみて笑う神楽と坂本に、何だか笑みが抑えきれない。


なんだよ、なんだっつーの


自分が母親役なのは気に入らないが、どこかむず痒いこの気持ちに、銀時は照れくさそうにはにかんだ。



精一杯のありがとうを
(俺の方こそほんっとありがとう)


09/05/11

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