「…準備は?」
「完璧です」
「よし」

自分たちの他に誰も居ないというのにも関わらず、隠れるようにひそひそと喋る。

「いいか、決してターゲットに悟られるなよ」
「「ラジャー!!!!」」

銀魂がカレンダーをビシッと指差すと、万事屋ファミリーにやりと笑った。





#黄色の花言葉(坂銀+万事屋)




――コトコトコト

鍋の音と鰹節の独特な香りが当たりに広がる。
時計はもう直ぐ夜の7時頃を指そうとしており、どうやら夕飯時ぴったりに出来上がりそうだと苦笑した。
今頃子供たちは上手くやっているのだろうか。
その様子を想像して少し笑うと、大きな皿に盛り付けを開始する。
刺身、寿司、揚げ物、そして今煮込んでいる煮物で完成。
今日は色々と奮発してしまった。これで暫くはまた節約生活を強いられるのは必須だろう。

「そろそろいいか」

コンロの火を止めると味見をしてから煮物を大皿に盛り付ける。
最後にバランスを整え、ふうっと息をついた。

「さーて、そろそろかな」

呟きながら時計を見上げると、バタバタと階段の音が聞こえてきた。
慌ただしい足音にくすりと笑うとテーブルの上を片付け始める。

「銀さん帰りましたよ〜」
「ただいまアル!」

元気な声からして上手く連れてこれたのだろう。
後ろから困惑気味な顔が覗いている。

「ほら、挨拶するよろし」
「お、おお!おじゃ「お邪魔しますとか言ったらぶん殴るアル」…えっ」

どす黒いオーラを纏った神楽に困惑したように後ろ頭を掻く。
銀時はその様子に苦笑すると、手に持ったフキンを近くに置いた。

「ここはてめぇの帰る所でもあるだろうが」

いつもは堂々と入ってくるくせに、何で今日に限ってそんな緊張してんの
苦笑しながらの銀時の言葉にキョトンとした顔をした後、嬉しいような照れ臭さそうな表情で口を開いた。

「おぉ、…ただいまぜよ」

「おう、お帰り辰馬」

坂本の言葉に満足したのか、神楽から黒いオーラが消えていく。
銀時が坂本からコートを受け取ると、それが合図とばかりに子ども達が奥の部屋へとバタバタ駆け出した。
それを坂本が不思議そうに見つめる。

「辰馬」
「ん?どうかしたがか?」

呼び掛ければ直ぐに返事がかえってきた。
返事と共にこちらを向いた顔に手をのばすと、そのままぐいっと自分の方に引き寄せる。
勢いでぐらついた坂本の唇に自分のそれを重ねると、ゆっくりと離す。
驚いて目を見開いている坂本を笑うと、コツンと額を指で弾いた。

「この前のお返し。」

言ったことの意味が分からないのか、ポカンとした表情を浮かべている。
思い出そうと首を捻るが中々それが出来ない。我ながら年を感じる瞬間だ。

「俺からするなんて超が付くほど貴重なんだからな。有り難く思え」

ふふんと偉そうに鼻を鳴らす銀時に思わず笑みを漏らす。
確かに彼からこうして積極的に触れてくることは滅多にない。超が付くほどレアだ。
恥ずかしがり屋の彼に触れるのは、殆どが坂本の役目と化している。なので今回の銀時からのキスは吃驚するよりも嬉しさの方が勝っていた。

しかし、照れ屋な彼をこうさせる理由というものがある訳で。

いよいよ唸り始めた頃、銀時がくるりと踵を返し、台所の方へと向かって行く。
ふと視線を投げると、顔には出なかったものの両耳がしっかり赤く染まっているのが見えた。

「おいもじゃ!呆けてんじゃねぇヨ!」
「おお?」

しばらく台所の方をぼんやり眺めていると、後ろから神楽の声が聞こえて振り返る。
それにしてもこの言葉遣いは酷い。銀時にも言っておこうとひっそり心に決める。

――バサリ

「バラ・・・?」
「「Happy Father's Day!!」」
「ファザ・・・」

目の前に差し出された黄色のバラと、ニコニコと笑う子供たちに声がかすれた。
早く受け取れとばかりにぐいっと近くに突きつけられ、慌てて花を抱えると台所から何やら大きな皿を抱えた銀時が戻ってきた。

「おお、お前ら渡したのか」
「金時・・・それは・・・」
「銀時な。花があいつらからならこれは俺から」

そう言ってテーブルに置かれたのは見覚えのある懐かしいもの。

「土佐煮・・・皿鉢料理やか!」
「向こうの料理よくわかんねぇから、取り敢えず鰹系で攻めてみました」
「流石銀ちゃん、やるときゃやるなお前!」
「神楽ちゃん、それ親父くさいって」
「で、どーよ、感動した?」

ふと黙りこくってる坂本を見上げると、三人纏めてぎゅっと抱きしめられた。
予測していなかったため、そのまま後ろに倒れそうになるが、坂本が支えてくれて何とか持ち直す。

「おんしら、しょうまっこと愛しちゅう・・・!!!!」
「ちょ、苦しいんですけど・・・!!」
「わしは幸せもんじゃあ」

ぎゅうぎゅうと抱きしめられ、思わず苦笑すると、釣られたのか神楽や新八も楽しそうに笑う。
幸せそうに真ん中で微笑む坂本に気づかれないよう、銀時がそっと微笑んだ。






愛と信頼と尊敬を

帰る場所ならいつでもあるから
たまにはゆっくり羽を伸ばせよ



09/06/22

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