空に行きたいのだと

そんな話をぽろりと言うと、一瞬ぽかんとした顔をされてからまた冗談かと笑われた。

冗談ではなく本気なのだと口にするには


ほんの少し、まだ勇気が足りなかった





#アポリア(Sakamoto Side)



「お前、夜空とか好きなの?」


屋根の上でぼんやり星を見上げていると、隣の銀髪がぽそりと呟いた。
自分がこの場所を見つけるより早くからここに居た彼は、言わば屋根上の先住民だ。
そう彼に言ったら格好悪いと一蹴されてしまったが。
兎にも角にも話しかけられた事に驚く。いつもならば話しかけても無視するような男だというのに、今日は一体どういった風の吹き回しだ。


「空がっちゅうか、星がかのう」
「星…」


そう呟くと、ふうんと息を漏らして再びそっぽを向いてしまった。
斜め前の少し離れた場所にゴロリと寝そべった彼の表情はここからは見えない。
坂本もそれ以上は何も言わずに男に投げた視線を空へと戻す。
何故そんなことを聞いたのかは分からないが、納得してくれたようなのでまぁよしとしよう。


「何で星なんか好きなんだ?」


視線を戻した途端、続いて投げかけれど質問に今度こそ目を丸くする。
この男はこんなに饒舌であっただろうか。


「理由か…考えたこともなかったのう」


気づいたら夜空を見上げていて、そこに存在する小さな輝きに心を奪われていた。
いつだってそこに見える星は、変わらないままで…
こんなに小さく見えるのに、実は遠くにあるだけで大きいものなのだと知った時にはこの目で確認したくて仕方がなかった。


「いうなら、絶対に変わらないから…かもしれん」


だから、変わらない星に安堵を感じ、求めているのかもしれない。

視線は星へと向けたまま呟く。
そういえばこんな風に考えたことは無かったと、我ながら珍しく感じる。
いつもなら、理由付けは得意中の得意だというのに。


「ふうん…ま、確かに綺麗だけどな」
「おんしは何ぞここにいるがか?」
「俺?」


どさくさに紛れて今まで気になっていた事を口に出す。
今の今まで話をしなかったわけではないが、ここまでお互いに踏み入った話はしたことがなかった。
否、お互い踏み入ることを恐れていたのか。


「俺は…ただ、夜風に当たりたいだけだよ」


少しだけ言い淀んでから出た答えは至って普通の理由だった。
恐らくはもっと他に何かあるのだろうが…


「ふーん、まっことかえ?」
「まっことまっこと」


適当な口調のそれに少し眉を寄せると、隣で男が気まずそうに頬を掻く。


「まぁ、なんだ・・・いいんじゃねぇの?」
「は?」
「星、好きなんだろ」
「お、おお・・・」


「だったら、そのことを誇ったって、いいんじゃねぇの」



好きなもんがあるってのはすげぇことなんだぜ

続いた言葉に勢いよく振り返った。
案の定、男は照れくさそうにまた頬を掻いている。
はは、と不思議と笑い声が漏れた。


「知っとったんか・・・」
「別に」
「ほうかほうか」


なんだ、そうだったのか。

じわりと暖かさを持った心に何処かしっくりくるものを感じて笑う。
さっきのは彼なりの激励の言葉なのだろうか。
ならば、今日の彼の様子が可笑しかったのは、自分のそれも可笑しかったからか。
途端様々なことに合点がいき、ふふんと鼻を鳴らした。
それを不機嫌そうな目でジロリと見られるが、にやけた口を抑えることは残念ながら出来そうにない。


「別にっつってんだろ。ちょっとこの人自意識過剰なんですけどぉ」
「あっはっは!銀時は照れ屋さんじゃのう!!」
「・・・ったく、元気じゃねぇか。気を使って損したぜ」


あれは気を使ってくれていたのか。
人と自ら関わろうとしないお前が。

またまた目を丸くすると、銀時の耳が薄っすら赤く染まっている。
今日はなんだか驚くことばかりだ。


「銀時」
「・・・んだよ。大丈夫なら俺は部屋に・・・」
「ありがとうな」
「え」



「ありがとう」



言葉と共に自然と微笑が浮かんだ。
何故だか今はとても心が暖かい。先程までとはまるで雲泥の差だ。



「・・・別に」



そう告げたその顔は、先程のしかめっ面とは違い、暖かくて消えそうな笑顔を浮かべていた。







夢が決意に変わる時
(暖かさをありがとう
誇れる勇気を、ありがとう)




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09/07/05

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