夢の足跡

□2009.09〜
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仕事を終えてけんちゃんちに帰ると
エプロン姿のけんちゃんが
”おかえり”ってお出迎え



鞄も持ったままでキッチンを覗くと
レンジ台に大きな蒸し器



「うわー、蒸し器なんて持ってたんだ」

「へへ、すごいやろ」

「男の1人暮らしで蒸し器持ってる人って…」

「だから〜、こう見えて意外と家庭的なんですってばー」



くすくす笑い合う2人の間には、どこかくすぐったいような、温かい空気



ここんとこやっと時間ができたけんちゃんは
またも料理にはまっている


「今日はなに作ってるの?」

「んーとね」


もの凄く凝った料理が出てくるのかと思いきや
作っているのはお団子だって


「だって、ほら、もうすぐお月見の季節やんか」

「あ、そっか」

「かってきたお団子じゃ味気ないかとおもって」

「ふ〜ん…でもお団子って茹でるんじゃないの?」

「あらそぉ?うちは蒸す派なのー」

「そうなんだ」


そう言いながらけんちゃんが取り出した幾つかのかたまりは
ほかほか湯気をたてている


「ほら、ぼーっと見てないで一緒にまるめるの」



まだ持ったままだった鞄をソファに置いて
急いで手を洗って隣に並ぶ



「熱いから気をつけてね」


そう言った本人が真っ先に触って


「あっつ〜」


でもその表情はとっても楽しそう




かたまりからちぎっては丸める

こねこねこねこね




「…気持ちいいでしょ」


ああ、この感触


「ん、なんかねんど遊びしてるみたいで楽しいね」

「ふふ」


次々と丸められ、団子らしくなっていく



こうやって並んで料理作るのって、いいな



単に丸くするだけかと思ってたら

けんちゃんは途中から細長く丸め出した


「ん?それ…?」

「うーんと、ここをこうやって…伸ばしたら」



”ほら、うさぎ”



そう言いながら笑うけんちゃんは
どこからどう見ても子どもみたいで可愛いから
でぶなねずみみたい…だなんて事は言わないであげるね




そんなけんちゃんが、次に冷蔵庫から取り出したのは


「え、七味…」


七味を少し取り出して、唐辛子の紅い部分だけを指でつまむ


「うさちゃんの赤い目のかわり〜」


ああ

しかめっ面して一生懸命貼り付けてる姿がおかしい



「…にしても唐辛子なんて…食紅とかがよかったんじゃないの?」

「さすがにそれはうちにはありませーん」

「意外と家庭的…」

「そんなんで色付けするなんて邪道」


味がどうなるのかなと思ったけれど
唐辛子とはいっても、ほんの少しだから、まあいっか



できあがったお団子をお皿に重ねてって
最後に残ったうさぎ


けんちゃんは両手で2匹を持つと


「こっちがお前、で、こっちは俺」


そう言いながら、横に並べずに向かい合わせにして
まるでキスしてるように鼻先をくっつけて置いた



「あ」



笑ってけんちゃんを見上げるあたしに
降りてきたのは不意打ちのキス




「俺らも、ちゅー」


「///」




きっとあたし
うさぎちゃんの目より赤いほっぺになってるだろな




ふにゃりと笑う、そんな可愛いけんちゃんに



またひとつ恋をした






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しょうゆダレと抹茶でいただきます

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