夢の足跡
□2010.8.
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付き合いだして半年？いやもうちょっとかな。
彼女の休みと自分のオフがなかなか合わなくても
それなりに時間を作って逢瀬を重ねてはいる。
おれとしては不満なんか全くない。
…つもりやったけど。
ぼけーっとバラエティ番組でやってた人様の恋愛事情とか観てたら
ふいにある事が気になった。
「そういやあんまり”すき”とか言われてないような…」
大人しくて控えめな彼女はいつでも受け身で
おれもどっちかっていうと恋愛は受け身なほうやから
甘い会話もなければ、好きとか愛してるとか言い合うこともなくて
案外、ラブラブな感じじゃないんよね。
いや、おれももう結構な年やし、べつにそんなラブラブしたいわけちゃうけど。
なんかこう、恋愛の歌詞とか書いてたら
やっぱりそれなりに色々想像もするし
普段は考えないことも必然的に考えちゃったりするわけで。
おれにとって女の子って謎、まるで未確認生物。
なのに、あいつはちょっとそれとは違う。
わからんけど、気を遣わんでいいというか、落ち着くっていうか。
なんちゅうの？
物腰がやーらかくて、クサいの承知で言えば
そう、陽だまりみたいな。
だから一緒におるのは最高に心地ええ。
「でもやっぱ言われた記憶がない。」
忘れっぽいと重々承知してはいるが、このことに関しては間違いない自信がある。
だって絶対言われてたらおれ、めちゃくちゃ喜んでるはずやもん。
おれっていつも結果オーライなくせに、いったん気になると、とことん気にするタイプ。
悩む、とかそこまでは行かんけど
おれのことどんくらい好きなんかなー、って。
やっぱりときどきは確認、したいやん？
普段は手を繋ぐのも、ましてやキスなんて
こっちから仕掛けないかぎり、ぜったいにしてくれない。
だから、軽くキスをしたときなんかに
ほんとたまにだけど
名残惜しそうに向こうからもう一度小さくキスを返してくれたりするのが
おれにとってはすんごく貴重で
そんだけのことでめちゃくちゃ嬉しくなってみたりしちゃうんだ。
抱きしめて体温を感じて
俺の服をきゅっと握りしめるのが分かっただけで
”もう離すもんか”ってくらい幸せな気分になれてるとか、
そんなこと思ってるなんて、ぜったい口には出せないけど。
結構おれってかわいくない？
こっちから聞けば多分「すき」って言ってくれると思う。
けど、そうじゃなくて。
おれが先に言ってもええけど。
でも、それでもなくて。
『寝る前に言われたい一言は？』
『大好き』
そんな思いを込めて
ファンからの質問の答えで言ってみたけど
外国で言っても届くわけない。
「どしたの？」
「……」
旅行のあともプロモーション活動やら雑誌の取材やらで忙しかったおれ。
久しぶりにうちに来た彼女を
目が合うなりいきなり引き寄せたもんだから
彼女は不思議そうな顔でおれを見上げてきた。
それを至近距離でじっと見つめる。
「なんか言いたいこと、ない？」
「？…おかえりけんちゃん、旅行、楽しかった？」
「……ただいま、うん、楽しかった」
そう答えながらも真顔で見詰め続けるおれ。
あれ以来おれの頭を占めてんのは
”どうやってこいつに好きって言わせよう”
ってことばかり。
”好き”じゃなくても、せめて”さみしかった” とかさー。
おれが恥ずかしくて言えないことがあるように
こいつも”恥ずかしくて言えない”
ってんのならちゃんとそう言ってほしい。
その言葉を引き出す、という事に妙に使命感のようなものまで感じてきた。
なら、まずやるべきことは？
うーん。
女心がわからんのに、そんなこと考えても意味ないような気がしなくもない。
だったら彼女におれがしたいこと。
えーと。
まずは優しくしてあげたい。
頭撫でてあげたい。
気持ちよくしてあげたい。
それから
美味しいもの作ってあげて
それから
たくさんたくさん見つめて
いっぱい、いっぱーいキスする！
これだ。
そう思いながらぎゅうーって抱きしめたら
鼻腔をくすぐる甘いシャンプーの香り。
いつも自分でも驚くくらい落ち着いてしまうその匂いと久々の感触にこみ上げる愛しさ。
うっかり”すき”って言っちゃいそうになるのを堪えて。
でもこれだけじゃいつもとあまり大差ないから
じゃあ今日はちょっと、とりあえず。
ただいまのキスをいつもの5倍くらいしてみよう。
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そういうのをラブラブと云うんじゃないか(笑)
とりあえず前編、後編は後日。