夢の足跡

□2010.09〜
1ページ/1ページ



**************





ドッタンバッタン

きゃーーー






聞こえてきた物音と甲高い声。


けんちゃんも声は高いけど、それとは異なる…例えるなら
いや、例えるもなにもこれは明らかに子供の声。



リビングのドアをそっとあけ顔だけ突っ込んで様子を窺うと
小学生くらいの女の子と、少し小さな男の子、
そしてその2人と寝転がって戯れているけんちゃんがいた。






「…なにしてるの」


その場で佇んだまま尋ねると
けんちゃんは寝転んだまま視線だけ寄越して、少し汗ばんだ暑苦しい顔で笑って答える。


「見てのとーりプロレスごっこ」


「てか、けんちゃん……えーと、、なに、もしかして隠し子?」


「なんでやねん」


即答でつっこみを入れたけんちゃんは、すぐにむっとした顔を作ってみせた。

いや、即答でよかった。
肯定されてたらそのままUターンするところだし。


あたしに気付いた子供達があらたまったように座りなおして、こっちを向いてにこっと笑った。


「こんにちは」

「はじめまして」

「おねーちゃん、けんちゃんの彼女?」


そう問いかけてきたのは女の子の方。ませた問いに思わず苦笑い。


「えーっと…、まあそんな感じか、な?」

「なんでそこ肯定やないん」

「はは」




なんでもけんちゃんのお姉さんの旦那様が仕事の都合でこっちに来ることになり
観光を兼ねて一家で上京してきたらしい。

それで親の買い物に付き合ううちに姪っ子ちゃんたちが
”けんちゃんのおうちに行きたい”と言いだして。


『だったらおれが面倒みたるからたまにはデートでもしてきいや』


かかってきた電話に二つ返事でOKしたというけんちゃん。
しかも自分の行きつけのレストランまで予約してあげるというサービス付。

そんな気の利いた提案。けんちゃんにしては上出来すぎじゃない?


「どうしたの。こんなに暑いのに明日は雹でも降るの」

「さっきから失礼やな」

「そ?そもそも…けんちゃんに子守なんか務まるの?」

「それはだいじょーぶ。お前おるやんか」


あー、なんだ。だから呼ばれたのね。なっとく。

いつもなら迎えに来てくれるのに
めずらしく呼び出しだったからちょっと”あれ?”と思ったのは確か。


「でもばんごはんはもう作ってあるよ。お子ちゃまむけカレー」

「お子様なんかじゃないよ!」


それを聞いた姪っ子ちゃんたち、すかさず反論。


「なにをー」

「それにけんちゃんだってお子様だっていっつもおかーさん言ってるもん」

「ぷっ」


思わず吹き出す。だって、そりゃまあ、確かに。


「あー?そんなん言うても辛いのむりやろ。あまくち〜おこちゃま〜」

「きゃーーー」


擽られて倒れこむ女の子。
そんなやり取りも楽しいらしく、からかいながらもプロレス技をしかけては破顔するけんちゃんは
どっからどう見ても面倒見てるっていうより、ただ一緒に遊んでるだけにしか見えない。

でも初めて見る”子供と遊ぶけんちゃん”はちょっと貴重。
たまにはこういうのもいいなぁ。







しばらくすると、遊びはかくれんぼに移行。
みんなバラバラに部屋を出ていって、静かになったリビングに残されたあたし。


”そういえば…貰い物のチョコがたくさんあったような”


閃いたあたしはキッチンへ移動して、ある材料でできる簡単なおやつ作り。
チョコを溶かして砂糖と卵を混ぜて――。













それからもしばらく遊びまくった3人は
日も暮れる頃ようやくお腹をすかせてリビングへと戻ってきて
けんちゃんの作った甘口のカレーをもりもり食べて
あたしの作ったガトーショコラもきれいに平らげてくれた。


「おいしかったー!おねーちゃん、おかし作るのじょうずだねぇ」

「あら、ありがと」

「おれのカレーは〜?」

「うん、カレーもおいしかった!」

「なんかついでっぽい…」

「ふふっ」

「ねえねえ、おねーちゃんもいっしょにあそぼ!」


拗ねてるのにさらっと無視られるけんちゃんが面白くて肩を揺らしていると
あたしにも遊びのお誘いが。


「まだ遊ぶんかー、元気やなあ。でも腹いっぱいやしちょっと休もうや」

「おじーちゃんみたい」

「こら!おじいちゃんちゃうやろ!」

「いいよ、じゃあ…トランプ」

「トランプならええけど、泣いても知らんで」

「神経衰弱ね」

「げっ」


さすがに子供の記憶力には敵わないのか
嫌そうな顔をするけんちゃん。
3人の会話が面白くてあたしはずっと見ていたいけど。


「じゃあすぐ片付けるから先に始めてて」


そう言うと、けんちゃんも食器を持って立ち上がったから

「いいから、先に遊んでて」

と制して3人をリビングへ押しやった。







洗い物を終えると、いつの間にかリビングは静かになっていて
トランプが散らかった真ん中で横になってる3人の姿が見えた。


「…お腹いっぱいで眠くなっちゃったんだ」


けんちゃんを中心に、”川の字”じゃなく”小の字”になって寝てるのを見て
なんとも言えず微笑ましく幸せな気分がこみ上げる。


”か、かわいい…”


小さくて本当に可愛い2人と
ひげもじゃなのにあどけないけんちゃんの寝顔を交互に覗き込んで
この人、大人だよね?なんて思った。




そのままそっと座って散らばったトランプを集めてたら
寝てたはずのけんちゃんがむくっと起き上がった。


「…あかん、、寝とった」

「ごめん、起こしちゃった?」

「ううん、でももうちょっとしたら迎えにくるし」

「…え、帰っちゃうの?…このまま泊まってけばいいのに」

「えー」

「なんでけんちゃんいやがんの」

「…だってぇー…こいつら泊まったら…いろいろと我慢せなあかんしー」

「我慢って、なにを」

「なにをって、わかってるくせに」


そう言って、口角を上げて迫ってくる顔は確実に大人。
飴色の瞳で見つめてくるけんちゃんは
さっきまでとは別人。

いきなり卑怯なほどフェロモンを出してくるから
ちょっとひるんだ隙に奪われた唇。


差し込まれそうになる舌をかわし、慌てて身を引くと
けんちゃんの唇に手のひらを当てて押し返した。


「バカ。起きたらどうすんの。…でも…ほんとに泊まればいいのに」


「んぅー」


キスの続きもいいけど
まだ”えー”とかぶつくさ言ってるけんちゃんや
遊んでるけんちゃんも可愛いから


たまにはこんなのもいい、と思った休日の夜。







****************

子供が3人(うち1人髭有)w

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ