夢境

□That simple
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年末恒例行事




例年通りのイベントを終えたけんちゃんは
そのまま打ち上げに出席してから
明け方に近いような時間になってやっと
マネージャーさんに送られて帰ってきた。





「た〜だいま〜〜」



玄関で音がすると同時に聞こえた大きな声。



「おかえり」



テンションの高そうな声だったから
けっこう酔ったのかな、と思っていたけど
鼻歌を唄いながらリビングに入ってきたけんちゃんの足取りは
思ったよりもしっかりとしていた。


ほんのり赤い頬をしたけんちゃんと目が合うと
また”ただいま”を言ってきたので
今度は



「楽しかった?」



と質問で返した。




すると上着も脱がずにそのまま寄ってきて
ソファに座ったままのあたしに抱きついてきた。



同時に、いつものタバコの臭いと
やっぱりちょっとお酒くさい。



「めっちゃ楽しかったー」



耳元で嬉しそうにそう言うと
少し顔を離してにこにこ顔で見つめてくるけんちゃんは
かなりご機嫌な様子。




1年を無事に終えた安心感と
初めてソロでツアーもこなしたこの1年は
彼にとってはすごく充実したものだったのだろう。
大きなイベントで締めくくった今日は尚更。



答えてからも感慨深げに何度か頷く彼は
まだコートを脱ごうともしないけど
これだけ機嫌がいいのはめずらしいから
一緒に余韻に浸っているのも悪くない。




「今年ももう終わりだね」


「うん、……けどあとひとつ」


「ひとつ、なに?」


「ひとつしときたい事あんねん」


「ん?なんかまだ…する事あったっけ?」




大掃除はもう済ませちゃったし
おせちを作るにはまだ早い。
ほんの数秒の間にあれこれ思考を巡らせてみたけど
やっぱり思いつかなかった。




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