夢境

□Dreams into reality
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「ははは」



ドアを開いてすぐ耳に飛び込んできたのは数人分の笑い声。




「くびれがきれいやからしばーらく撫でとったんやけど」



「何年もやっててまだ撫でますか、そこ(笑)」



「ええやん、ほっといてよ」




その中から聞こえてきたのはまぎれもなくけんちゃんの声だった。










ずっと都内の別のスタジオに通っていたけんちゃんは、すっかり昼夜逆転の生活。
普通の生活をしているあたしとは時間も合わず、もう当分会ってなくて。


今日ここに来てるなんて思いもしなかったから
けんちゃんの笑顔を見ただけで
胸が弾んでうっかり表情に出てしまいそうになったけど。

がまん、がまん。




何事もないふりで軽く挨拶だけして傍を通り過ぎると
けんちゃんの方もちらっとこっちを見ただけで特に目配せするわけでもなく
そのまま変わらぬ様子で男性スタッフさんたちと談笑を続けていた。




ちく




それを見てちょっぴり痛んだ胸。



レコーディングに入ってから忙しかったのは分かってる。
たくさんの人に囲まれ、見た目以上に色んな気を遣う人だってことも知ってる。

あたしだって次のアルバムは楽しみにしてたから。



けど。



本当は淋しくて、何度もメールしようとしては消し
そんなことを繰り返してたとか
けんちゃんは想像もしてないだろう。

それを思うと、なんだか少し恨めしいような気がしなくもない。


けんちゃんはああ見えてあたしなんかよりずっと大人だし。
淋しくないの、かな。





「けんさん、で、続きは」



そんなあたしの心情など知る由もないけんちゃんは
話の続きを催促され、楽しそうに話しだす。




「あ、そうそう…でな?急にズシッと重なって、下向いたら素っ裸の女の子がおんねん」



「ぶは!いきなり裸ですか!」




何気なく耳に入った中の単語に一瞬にして体が固まった。



裸の女の子…ってなに?




「なんかなー?仙人…よーわからんけど、化身みたいなん」



「ぶっ、けんさん、仙人て(笑)それを言うなら…せめて女神とか」



「ああ、まあ何でもええけど(笑)その女神さんがな、おれに言うわけよ」



「なんて?」







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