創作戦国

□そして貴方は何も言わずに泣いた
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「時々、太郎兵衛達が羨ましくなる時があるよ」

普段は明るい表情を振り撒く利安が、どこか寂しそうな感情をその瞳に浮かべるものだから、声をかけてみればそんな返事が返ってきた。
歯を見せて小さく笑うその表情もいつもと変わらないのに、やはりどこか寂しそうに見える。

「…何故です?」
「家族が、いるから」

ほら、万助と仲がいいだろ、と付け加えられる。
聞けば、利安には家族がいないらしい。親が彼を捨てたのか死んだのかはわからないが、気が付けば一人でいたそうだ。それを見つけた官兵衛が彼を引き取る形で黒田の家臣になったらしい。
利安は多くを語らない。きっと忘れてしまいたいものが多いのだろう。
それでも、普通ならば与えられる筈の愛を与えられなかった寂しさは抑えることが出来ないのだ、と太郎兵衛は思う。だから彼は言葉に出さず、表情でしかそれを顕せられない。

「…俺は、あんたと万助が羨ましいよ」

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