創作戦国

□鐘が呼んでいる
1ページ/2ページ




「お前はここからいなくなるのか」

まだ幼さを残したような声が耳に届く。
この主とは付き合いは長い。ただ決定的に何かが相容れなくて、互いにどこか苦手意識を持っていた。
長政の問いに又兵衛は答えない。
静かに、ただ合わせた背中は相変わらず小さいな、とそんなことを考えただけ。

「…黒田から、離れるのか」

問いではなく、落胆。
離れる気はない、と又兵衛は言いそうになって、やめる。
いつかここを出る時が来るかもしれない。離れようとは思わないのに、近いうちここから出るかもしれない、という何とも言えない奇妙な感情が胸の中でその存在を示す。
ただ、それを表現する方法が、又兵衛にはわからない。
そんな又兵衛の心情に気付いたかそうでないのか、長政は予め用意されていたように言葉を次々と紡いでいく。

「別に、黒田から抜けても、僕はお前を止めたりはしないよ。お前の道だから」
「…へぇ」

アンタは縛り付ける気がしたから、何か意外だな。
茶化すように言葉を漏らす又兵衛に「真面目な話くらいまともに聞けよ」と長政から叱責の声が上がった。
ふと、背中にかかる力が強くなる。
長政が又兵衛に背中を押し付ける形でのしかかったのだが、元から力の強い又兵衛には些細な変化しか感じない。
いつもの愚痴のような小言。
そう思っていた。

「…その道で後悔なく生きていたら、僕に知らせて」

心の中に、するりと入り込む。

「そうでなかったら、お前を捜して黒田に連れ戻してみせるから」
「……は、」

どうやってだよ、とか。アンタには無理だな、とか。
いつも勝手に吐き出される悪態が、出てこない。
代わりに喉が鳴らしたのは渇いた笑い声だけだ。
妙な所が似ていて、やっぱり親子だなと思いながら、どこかで悪くないと感じる自分がいるのが不思議だ。

「…了解したぜ、松寿」
「殿、だろ馬鹿」

ふいと拳を差し出される。
それに、自然と笑みが浮かんだ。

「約束した、…殿」

こつん、とそれに自分の拳を軽くぶつけた。




「……どうせ、お前は笑って、ひとりで死ぬんだろう」
ぽつりと呟かれた言葉には、気付かない振りをした。


---------------
言い訳→
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ