その他

□いつかその肩と並べるように
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就寝時間の短い弟だから、こんな無防備に寝顔を晒すのはとても珍しいことだ。
いつも燐の方が先に寝るのに、起きた時には既に布団の中はもぬけの殻であることが多い。
燐は雪男の3倍近くは睡眠時間を取っているのだから、当然と言えば当然かもしれない。

「…雪男」

そっと、少し短めな前髪に触れる。ふわふわとして心地好い。
眼鏡を外したその表情に普段の凛とした面影はなく、年相応な15歳の顔を象っていた。
雪男が僅かに眉を潜め、んぅ、と小さく声を漏らす。
起こしてしまったかと慌てて手を離すが、その心配もなく雪男は寝息を立てる。
何だ、脅かすなよ。心の中で悪態をつき、燐は再びその幼い寝顔の観察を始める。

(…何か、子供の頃みたいだ)
気が小さくて、いつも泣いていた弟。
いじめっ子からいつも彼を守っていたことを思い出す。
それがいつの間にか身長も立場も追い抜かれてしまった。
強い。そう、知らない間に雪男は強くなって、知らない所で祓魔師となって燐を守ってくれていた。

(ああ、そうか)

寂しいと思っていた。
寂しかったのは、雪男が一人で戦っていたからだ。
確かに兄とは比べものにならないくらい強い弟だ。けれども、それは寂しい、と思う。

(強くてもつらくない訳がないのに)

「…雪男、」
「んん…、…」

何か寝言を言いながら、燐に背中を向ける。
ずっと一人で、兄に何も言わずに戦ってきた弟。
戦場で戦う時は広く頼もしい背中が、何故だか今は小さく見える。

俺が強かったらな。
この背中を守ってやれるのに。

「…ぜってー強くなるからな」

誓うように呟く。雪男は相変わらず起きる気配はない。
ふふ、と笑ってもう一度その髪にそっと触れた。
いつか、共に肩を並べて戦えたら、と思う。
(そしたら魔神<サタン>だって敵じゃないのに)






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