BASARA

□追憶の蝶
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蝶を見た。

この世のものとは思えぬほど、美しく鮮やかな朱の色。
書物以外に関心の持たなかった筈の半兵衛が、目を奪われるほどだった。

ひらひらと飛んでいくそれを、幼い半兵衛はハッとして追いかけた。
運動は苦手で、走ることも好きではない。そもそも体力がないので、すぐに息が切れた。
それでも半兵衛は必死で蝶を追いかける。
手を伸ばし、疲労が募る身体に鞭打ってひたすら追いかけた。



半兵衛は、ゆっくり目を開ける。
まず視界に入ったのは、見慣れた天井だった。

先ほどの、記憶。
あれが夢だったのか、幼い頃の記憶なのか、最早半兵衛には検討がつかない。
朱の蝶。ひたすら追いかける幼い自分。
その後から、記憶が全く無い。
夢にしても、あまりにも鮮やかすぎた。

ふ、と半兵衛は自嘲する。
最期が近づいているからか、思考力が低下している気がしていた。

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