BASARA

□追憶の蝶
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「半兵衛」

襖の外から声がした。
すぐに、秀吉のものだとわかって返事を返す。
案の定、襖を開けて室内に入ってきたのは秀吉だった。

もう、身体は満足に動かせない。
半兵衛に巣食った病は既にそこまで蝕んでいた。
唯一できることといえば、策を考えることだけ。
だが、それももうすぐ出来なくなるかもしれない。

秀吉が障子を開けるなどして、日の光を差し込ませる。
それを見つめながら半兵衛は蝶のことを思い出していた。

あれは、何を象徴していたのだろう。
このまま死に逝く自分の無念だろうか。それとも別の何かなのか。

「……秀吉」

無意識に、友の名を呼んだ。小さく、いますぐにでも消え入りそうな声だった。
秀吉が振り向く。その瞳が心配そうに揺れていた。
その紅い瞳を、あの蝶のようだ、と半兵衛は心の隅で思う。

「どうした?また、具合でも悪いか」
「…いや、何でもない…今日は、調子がいいよ」

夢とも過去ともわからないあの蝶のことを話したら、君は笑いとばすだろうか。
そう思いつつ、蝶は記憶の中で優雅に飛んでいる。
自分はやっぱりそれを追い続けていた。
その進む先に、何があったのかは相変わらずわからないけれど。



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