Novel

□妃芽様より
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恋の息吹


ある日の夜。オズが入浴を済ませ体を拭いていると、どこからともなく声がした。


『…ーズ。オズ、聞こえるかい?』

「わぁっ!ジャッ、ジャック?」

声のする方へ視線を向けると、ジャックが近過ぎる位の距離にいた。

『少し、話がしたいのだが。…良いかな?』

「じゃあ、急いで着替えるから、待ってて?」

ワシャワシャッと髪を拭くと慌てて服を着て自室に足を向ける。その際に、瞬間的にでもジャックのいる空間と現実世界とを往復したお陰で、足元がよろめき派手な音を立ててタオルの入ったバスケットを蹴飛ばしてしまった。
ギルバートとアリスには、口々に「逆上せたのか」とからかわれたが、オズはお構い無しだった。




だって。




身の危険が迫ったり、必然性が無い限りジャックが話し掛けて来るなんて、無い。




いつも、いっぱい話がしたいと思ってた。



ずっと前のご先祖さま。






ベザリウスの英雄。





ー…そんなの関係、ない。


サラサラの金糸の髪。透き通ったエメラルドの瞳。スレンダーなのに、バランスの取れた身体。


彼を取り巻く空気ですらも、繊細でどこか儚げだった。


“綺麗”と言う言葉が似合う男なんて、ジャック位しかいないんじゃないか?



そんな事を考えながら、オズは自室に入った。
一つ、大きく息を吐き出す。



「お待たせ、ジャック」

オズを待ちわびていたのかの様に、発声と同時に空間が入れ替わった。

『やぁ、オズ』

ーそう。この、笑顔。春の陽だまりの様な癒しの笑顔。オズは、この笑顔が大好きだった。


「それで、話って…。何?」

『んー?まぁ、大した事じゃ無いよ?たまには、世間話も大事だろう?』

言われてみたら確かにそうかもしれない。

いつもの切迫した状況ではなく、のんびりした時間。初めて、ジャックの声を落ち着いて聞いたかもしれない。

色々、意識してジャックを見ていたら顔が熱くなってきた。


(なんだろう、この感じ。ジャックの事を考えたら凄くドキドキする…)

オズは、今まで感じた事の無い感覚を覚えた。胸の奥に芽吹いた甘い風の様な感覚だ。
この感覚はー…。もしかして…。

『…オズ?起きてる?』


ふいにジャックが声を上げた。否。会話は続いていたのだが、オズがぼんやりしていたせいで会話を聞いていなかったのだ。

「ゴメン…」

『別に構わないけど…。疲れた?』

日を改めるかとでも言いそうな雰囲気になり、オズは慌てて頭を振った。


「違うよ!大丈夫!ただ、ちょっと考え事してただけっ」

『考え事?』

オズの言葉に、妙に納得した様子のジャック。

「そんなに、変だった?オレ」

『あぁ、イヤそうじゃない。ただ、考えている事が顔に出ていたからね』

オズの泣きそうな声に、ジャックは慌てて否定の言葉を投げかけた。ヒラヒラと手を振りながら。

「じゃあ、何を考えていたのか当ててみてよ?」

『それはダメだよ』

「どうしてさ」

『考えている事を、キチンと口に出すのは大切な事だよ?さぁ、言ってごらん?』

ニッコリと笑いながらではあるが、拒否を許さない口調。数度、唸るが観念した様子でオズは口を開いた。

「考えていたのはジャックの事だよ。初めて会った時から気になってたんだ」


キレイでカッコいいからとは、悔しいから言わなかった。


だが、ジャックは更に上を行った。


『気になっていた、とは恋愛要素での好き…って意味かい?』

どこか、揶揄する様な口調。
だが、決して小馬鹿にしている訳では無く、あくまでもオズの緊張を解し、彼が言おうとする事を後押しする様な…。ジャックなりの優しさが、そこにはあった。

「う…、あ、その…。そう、だよ。…ジャックの事が好きだ」

まるで風呂上がりの時の様な、上気した頬。恥ずかしさと緊張で泳いだ視線が捕らえたのは、伸びてくるジャックの両手。
オズの両頬を優しく包んだ彼の掌は、まるで現実に存在するかの様に暖かかった。


「ジャック…?」

『ありがとう。とても嬉しいよ、オズ。私も君の事は大好きだ』


ジャックの言葉を聞いた瞬間、オズの表情が瞬く間に花開いた。
泣きそうだった顔も、嬉しそうな笑みに変わった。

そして、ジャックに抱き寄せられた途端、幸せそうな…夢見心地の表情に変わって行った。


『これだけは言っておくよ。これからは、私が“オズ”を護る。何があっても傷付けさせないから。安心なさい』

「オレも。ジャックが傷付かない様に頑張って強くなるよ。自分の身は、自分で護る。オレは…此処にいるんだって言える様になるよ」

オズ自身が気付かぬ内に、彼の内面に変化が芽生えていた。まだまだ芽を出したばかりの変化だが、これがいつか花開く時、どの様な男になっているか楽しみだとジャックは思った。


『オズが私くらいの年になるまで、共にいられるかわからないが。…それでも良いか?』

「何、言ってんの?ずっと一緒に決まってるだろ!」

太陽の笑みを見た瞬間、ジャックはあぁ、自分は完全にこの少年に堕とされたのだと自覚した。

『そうだな、共にいよう。ずっと。…さぁ、今日はそろそろ戻った方が良い』

戻りを促すと、オズは目を閉じ上を向き“おねだり”をした。
そんなオズを、ジャックは心底愛しく思い、唇にひとつ。キスをした。



ーゆっくりおやすみ?いとおしいひとー


こうして、短くも長い蜜の時間が幕を閉じたのだった。




うふふふ←
妃芽様の文が好物なミルキーです
妃芽様のサイトにあるジャクオズ作品は
もう大好きです!
妃芽様ありがとうございましたvv
 

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