ショート集

□好きじゃない
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喧嘩した、些細なことで。些細過ぎて内容も忘れたけどそんな喧嘩をしてしまうくらいに最近ちょっとあいつとの距離を感じていた。

「で、どうしたのよ」
『別に、てか覚えてない』
「うそーん、俺お前等の喧嘩の原因聞くのが楽しみで来たのに」

焼酎片手に淡々とそんな台詞を吐く男。最悪だ。なんでこんなやつに連絡なんかしちゃったんだろう、そんな自分が一番最悪だ。

「まぁお前等なんだかんだで長いしなー」
『そうだっけ』
「もう8ヶ月とかだろ?」
『それって長いの?』
「俺にとっては」
『あぁ、坂田長続きしないもんね』
「何でだろーな」

それはあんたがすぐ他の女に目移りしたり手出したりするからだよ、なんて言わないけど。どうでもいいや。

『もういいよ、トシなんて』
「あーあ、かわいそうに土方くん」
『そんな事思ってないくせに』
「あ、分かった?まぁな、楽しくてしょうがねーよ」
『性格悪い』
「それ褒め言葉だわ」

本当にこの天パは性格が悪過ぎると思う。なんでこいつと飲みになんか行くことになったんだ。こんなデリカシーも優しさも気遣いのカケラもないやつと。なんで連絡なんかしたんだ、トシが一番嫌がる事を。

『だからか』
「あ?」
『トシ、怒るだろうな』
「そりゃそうだなぁ」
『つーか分かっててあんたも来ないでよ』
「でもお前は分かってて俺に電話したんだろ?」
『…まぁ、そうだけど』

じゃなきゃこんな馬鹿な男と二人で飲みになんかいかないよ。何されるか分かったもんじゃない。ボーッと焼酎のグラスを見つめていると坂田が話しを続けた。この男は一体、何を考えてるんだろう。

「俺さぁ、前にあいつの女寝取った事あんだよね」
『…』
「つっても俺知らなかったんだけどさー」
『本当かよ』
「じゃなきゃヤんねーよ、あいつの使用済みなんて気持ち悪ィ」
『あんたって本当に最悪なんだね』
「仕方ねーじゃん、何か知らねーけどあいつと女の趣味被るんだよ」
『は?』
「厄介な事にタイプが同じみたいでよー」
『何だよそれ、あたし危ねーじゃん』

冗談混じりに少し距離を置いて言うと坂田はニヤリと笑ってグラスを置いた。鳥肌が立った。

「お前の事、好きになったの俺の方が早かったしな」
『…は?』
「まぁどうでもいいか」
『ちょっと何、それ』
「お前さぁ」
『な、に』
「あいつやめて俺にしろよ」

本気なのか冗談なのか、変わらずニヤニヤと笑う坂田に募る不快感。

『何言ってんの、冗談キツイ』
「いや結構本気なんだけど」
『あんたとなんか付き合ったら終わりだよ』
「よく言うな」
『しんで』
「俺の事好きだったくせに」

髪を撫でられて吐き気がした。このムカつく顔をぐちゃぐちゃにしてやりたいと思った。
それでも動かない体と言い返せない自分に腹が立ったのでとりあえず目の前の男に水をぶっかけてやった。


*220315

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