Thanks a lot
□酒台詞
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@『特別なんですよ』
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「どーかした?」
急に声を掛けられて、足を踏み外しかけた階段に、何とか踏みとどまる。
「な、わ、秋くん!吃驚した〜」
「驚きすぎでしょ。…何?ザギがどうかしたの?」
呆れたような視線をひとつ、こちらにやると、彼は私の視線を追い掛けた。
「いやぁ、相変わらず、アルコールワード全開だね。お客さん、完っ璧に酔っ払っちゃってるじゃないか」
くすくすと、少し意地が悪そうに笑う。
彼は、やってる事は子どもみたいなのに、妙に大人びた表情をするから不思議だ。
「何か、いいなぁ、と思って」
「へ?あれを言って貰いたい訳?」
「うん…まぁ、そりゃあ、ねぇ」
女の子としては。
もちろん、全く言われた事がない訳ではない。
最初の頃は、これでもかとばかりにボロボロと溢れ出る言葉に、呆気に取られたものだけど。
いつの間にか、全然甘い言葉を聞けなくなった。
そりゃ、秋くんに比べれば、今だって色んなコトに気付いて、褒めてくれるけど。
「ザギに敬語、止めさせたでしょ?」
「え?あぁ、うん」
「その頃からじゃない?言われなくなったの」
「そうだっけ?…あれ、そうかもしれない」
いつまでも敬語を使われるのは、他人行儀な気がして、普通に話して欲しいと頼んだのだけど。
それがいけなかったのか?
「ありがとうございました」
座木の接客が終わったらしい。
はっと我に返ると、すぐ目の前に彼が立っていた。
「何してるの?」
「いや、別に、覗いてた訳じゃなくて…」
「覗いてたんだね」
「あー、すみません」
「謝るような事じゃないよ」
にこり、と笑って座木が手を差し出してきた。
「いらっしゃい。待たせちゃって、ごめんね」
その手をとって、ふと秋くんの姿が見えない事に気付く。
気でも使ったつもりだろうか。
→続きます→