歩調を合わせて

□天邪鬼
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世間は春休み。
だが年中、人通りの少ないこの道では、そんな事も無関係だ。

「あれ、深山木?」

遥か前方から、こちらに向かって歩いてくる人影があった。
見覚えのあるシルエットは、まだ声も届かないような距離から、ひらひらと手を振っている。

「や、おはよう」
「おはよ…何してんの?」
「朝の散歩」
「へぇ」

会話が切れる。

特に話すこともなかったので、そのまますれ違おうと振りかけた手を、ひょい、と掴まれた。
突然の事に驚いて、思わず足が止まる。

「な、何…?」
「いや、ちょっと一言」

ひんやりとした手は、ぴくりとも動かなかった。
咄嗟に、寝癖でも跳ねているのかと思い、空いた手で髪を撫で付ける。
だが、深山木は予想に反して、にっこりと花が咲いたように微笑んだ。



「僕、君のこと大っ嫌い」



「……は?」

天使の笑顔で、悪魔の告白か?
やっとの事で喉から音を搾り出すと、彼の手が緩んで、するりと腕が落ちた。
じろ、と見返しても動じた様子はなく、むしろ機嫌が良さそうな深山木を見ていると、からかわれているような気がして仕方ない。

「私も、深山木なんて大っ嫌い」

口先だけで宣言して、すぐに目を逸らした。
私と同じだけとは言わないけれど、せめて一欠片くらいは同じ気持ちを思い知れ。

「…それはそれは」

何故か嬉しそうな呟きが聞こえて、怪訝に思い視線を戻す。
しかし彼は既に歩き出していて、伸びかけた猫っ毛が朝の光を柔らかく返していた。

「何あれ…サイテー」

朝っぱらから気分が悪い。
私が彼の台詞と、笑顔の意味を知るのは、もう少し後。今日が4月1日だということに気付いてからの話。



---Fin.
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