歩調を合わせて

□over write
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駅前のロータリーに着いたのは、約束の時間より5分ほど早かった。
基本的にギリギリで動いている自分としては、考えられない完璧さ。
すべては、待ち合わせ相手の律儀さに合わせたものなんだけど。…あぁ、健気だね、私。思わず自画自賛。
駅の改札が見える場所を選んで立つ。休日だけに、人が多い。

「あれ、珍しい」
聞き慣れた声が、背中に掛けられた。振り向かなくても分かる、弾んだ声。
「やほ、秋くん」
久しぶり、ではないね。と笑うと、そうだっけ?と首を傾げる。
昼間の白い日差しを受けて、もともと色素の薄い髪が光を強く集めているように見える。
「ゼロイチ待ち?」
「まーね」
「時間は?」
「あと5分」
彼は時々、こんな風に私が零一と待ち合わせをしていると、ふらりと通りがかったりする。
そうかと思えば何でもない所で、ばったり出くわしたりもするので、常に久しぶり、という感じはしない。
「じゃあその間、僕がお相手してあげるよ」
「別にいりません」
「きゃー冷たい」
口元に手を添えて可愛い台詞を言っているけど、口調は棒読みだ。
どうせ断ったって、立ち去る気なんてさらさらないことは、経験で分かっている。
そして最終的には、やって来た零一をからかうのが目的なのだ。

「でも今日は、ゼロイチちょっと遅れると思うよ」

さらり、と重大発言。
「え、何で」
「愛想つかされちゃったんじゃないの?」
いつも遅刻ばっかしてるデショ、と意地悪く笑われて、言葉を失う。てか、何でバレてんの。
私があんまりひどい顔をしていたのか、秋くんが笑いを含みながら、呆気なく種明かしを始めた。
「ふふ、大丈夫だって。バイトが忙しいだけだから」
「な、何だ…って、何で知ってんの」
「ゼロイチのことなら、何でも知ってマス」
「ストーカー?」
思わず零れた言葉に、秋くんが不快そうに眉を寄せた。
「失礼な。ここに来る途中、店の前を通ってきたんだ」
「あはは、ごめんー」
「結構繁盛してるみたいだし、だからこその短期バイトでしょ?」
「そうだよねぇ」
それが分かった上で、バイト上がりに約束を取り付けた私が悪いのか。納得。
「まぁ、別に良いんだけどね。ちょっとくらい遅れたって」
零一が遅れるなんて、珍しすぎて雨が降ったらどうしよう。あ、傘ないや。
とりあえず、のんびり待つなら座ろうかな、と近くの植え込みの脇に腰を下ろした。
当たり前のように、秋くんが隣に座る。
視線を感じて顔を向けると、秋くんが頬杖をつきながらこちらを眺めていた。
「何?どっか変なら、今のうちに教えてね」
「いや?愛されてるなぁ、と思って」
「は?」
「ゼロイチがね」
いきなり何を言い出すんだ、コイツは。
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