歩調を合わせて

□Let's HALLOWEEN!
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ぴんぽーん

「はい…」
「トリック オア トリート!」

玄関の戸が開くと同時に叫ぶ。
目の前の家主は、扉を開けた状態でしばらく固まっていた。

「…何だ、お前か」
「む。何だとは何よー。零一、トリックオアトリート?」
「あー、悪い。良いから入れ。近所迷惑だ」

大して心の込もっていない謝罪を聞きながら、零一の家に上がり込む。
部屋に入ると、いつもの殺風景な卓に、何かが置いてあった。

「何?飴、じゃないや…ラムネ?秋くん、来てたの?」
「いや、まだ」
「ってことは、これから来る予定?」
「予定ってか…毎年、来るんだよ」

零一が、心底うんざり、という顔で言う。
昨年のコトでも思い出したのだろうか。

「それはまぁ、対応策だ。ちょっとなら食ってもいいぞ」
「え、良いの?」
「trick or treat。選ぶのは、お菓子だよ」

あぁ、悪戯防止の対応策ってコトか。
大変だね、零一も。

「ところで」

私がラムネをひとつ口に入れると同時に、零一がじろり、とこちらを見やる。

「お前のそれ、仮装なのか?」
「そうだよ!わからない?」
「…さっぱり」

思わず、大きな溜め息が出る。
結構、自信作なんだけどな。

「ば、ん、ぱ、い、あ!あ、女ドラキュラでも良いけど。違い分かんないし」
「何だよ、それ」

黒いワンピースに、真っ赤なマニキュアとルージュ。
さっきチャイムを押す直前に、100均で見付けてきた黒マントまで羽織ったのに。
普段はスカートですら、ロクにはかないから、張り切って着たのになぁ。

「そっけないなぁ。いいもんね、秋くんに褒めてもらうから〜」
「は?」
「そだ!折角だから、零一もやろうよ!!」
「冗談言うな、俺はやらない!」
「まぁ、そう言わずにさぁ。私、包帯なら持ってきてるんだよね〜」
「そんなもん、たまたま持ってるもんじゃねぇだろう!?」
「そりゃ、もちろん確信犯?」

あはは、と笑って、嫌がる彼の頭と手に、ぐるぐると包帯を巻きつける。
肌が見えてる部分だけでも、充分それらしいと思うんだよね。

「…お前、下手だな」
「うっさいよ!」

文句を言いながらも、包帯を巻かれている部分は決して動かさない。
こういうところが、律儀って言うんだ。

「よし、オッケー!何となく、それっぽい!」
「何となくかよ」
「だいじょぶ、だいじょぶ。何なら、ケチャップでも被っとく?」
「勘弁してくれ」

包帯の端を自分で引っ張って、器用に緩みを締めていく。
解けないように収まると、ひとつ頷いて「さんきゅーな」と呟いた。
へへ、と笑うと、零一も薄く笑ってくれる。

さぁ、Let's HALLOWEEN!
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